神曲短編集
□あなたとともに。
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ひとは、信用するものではなく裏切るものだ。
あれはひとではない、ただの的だ。
子供は愛らしさを武器にして近づく爆弾だ。
四肢をふきとばされたくなければ、撃て――。
「おにいちゃん、あれとってくれる?」
つたない口調が真下からきこえて、俺は視線を下にさげた。
俺の膝上くらいしかない小さな子供が、俺の服を小さな手で掴んでいた。もう片方の手は上空のなにかをゆび差していた。
「ん、あれか?」
隣の、俺の大好きなひとがその“なにか”に気付いた。今日はそのひとと良いお天気だからって、公園をのんびりさんぽしていた。そんな時の出来事だった。
緑が綺麗な一本の木の枝に、赤くてまるい球体がくっついていた。球体から伸びる紐がぷらぷらと枝に絡まっている。
ええと。風船だ。
子供がもらうと何故か喜ぶやつ。俺にはよくわからない。
「よし、ちょっと待ってろ」
子供の為に、彼はすぐに動いた。俺は彼のそんなところが好きだ。優しくて、大好きだ。
「よっ、」
風船は少し高い位置にあった。
彼がジャンプしてもギリギリ届かない。紐にもかすらない。
「あー、駄目だ。黒鷹、頼む」
「……?」
彼が諦めて俺を見たので、俺は首を傾げた。
ああ、俺がとれ、ということか。まかされたんだ。たよりにされた。うれしいな。
俺のが背が高いから、多分とれる。がんばって、みよう。
「おにいちゃん、おねがい」
俺の服を掴んでいた子供が手を離して、俺に懇願の目をむけた。なんでそんなにあんなものがほしいんだろう。よく、わからないけれど、きっとこの子にとってはとってもたいせつなものなんだ。
「うん…がんばる」
俺は少し助走をつけて、紐に手を伸ばして高く飛ぶ。
紐が、指に絡まった。
とれる。
ぎゅっと掴んで、その紐を離さないようにした。
くん、と引っ張られる紐と、丸い球体。
「すげっ」
「やったぁっ」
彼と子供が、嬉しそうに声をあげた。
俺も、嬉しいな。
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