神曲短編集
□それを罪というならば。
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何故だ。
何故…。
裏切られた。
…何故…?
嗚呼…
私が
愛したからか。
氷の牢獄。
涙は既に凍り付いた。
いっそこの鼓動も凍り付けば良いのにと、願っても、弱々しくそれは音を続けていた。
嗚呼――殺してくれ。
「…は…」
生温い息が僅かに漏れる。だがすぐに白く染まり凍り付いた。息をする度に入り込む冷気。気管に、肺に滑り込み、まるで氷を丸飲みしたかのように芯から冷えていく。
氷の手枷をじゃらりと鳴らし、逃げようともがく。
全身の肌に最早感覚などない。
時折ひびが入ったかのようにピリと痛むだけだ。
氷の地に付いた両膝の皮膚は既に破れ、手枷をはめられた両手首も同様だった。
虚ろな目を開く。
凍り付いた睫毛が重かった。
嗚呼…もう既に私の瞳は紅黒く染まってしまっただろうか。
背に生やした6対の白い羽は、既に半分以上闇色に染まってしまっただろう。
「う…うう。うぅ…」
呻く。
いっそ何もかも凍り付いてしまえば楽だろうに。
遠くで自身と似たような罪人の何千もの呻きが聞こえた。
耳、さえも苦痛から逃す事を許さない。
…私が一体、何の罪を犯したというんだ!!
思い上がるな愚かな曙の子。
だからお前は墜ちたのだ。
何処かでそんな声がする。
「ああ…あぁぁぁあああぁああっ!!!!」
発狂。
もがき、苦しみ、暴れ。
舌根を突き出して、喉を焼き殺すように叫ぶ。
既に八重歯は鋭い牙となり、ただ唸る私は獣のようだった――。
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