物語

□ねこ
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「兄上。何をご覧になっていらっしゃるのですか」

京、六波羅にある平家屋敷。
濡れ縁で寝そべっていた知盛は、面倒臭そうに首だけを動かし、声の主を確認した。
「……重衡か」
「何かおもしろいことでも?」
重衡が尋ねると、知盛は意味深な笑い声をひとつ漏らした。
「クッ……猫が二匹…じゃれあっていたんでな」
「猫…?」
重衡は先ほどまで知盛が見つめていた方向に目をやった。
「二匹……。一匹はわかるとして、もう一匹は……もしかして、敦盛殿のことですか」
事実、ふたりの視線の先には飼い猫と、平経盛の末子敦盛が庭で遊ぶ姿しか確認できなかった。
知盛が、今度ははっきりとククッと笑う。重衡がそれにつられて知盛を見る。
「アレは……猫だろう?」
言われて、重衡はもう一度庭に敦盛に目をやる。
「……確かに、愛猫のように可愛く小さな子ではありますが、どちらかというと……兄上?」
だらしなく横になっている兄の姿を見ると、今の短い間に知盛は寝息を立て始めていた。それを重衡は呆れた様子でため息をつき、
「…どちらかというと、兄上のほうが『ねこ』らしいですよ」
と、困ったように笑った。
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