ポケモン小説

□その手に
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どうして、こんなにも違うのだろう


この『違い』が、凄く腹立たしくて


不安。









その手に









「の〜・・」
相変わらず、この声は、ハーリーに気持ちを届けてはくれない。
ある程度の意思表示は態度で表せても、この悩み事までは、ハーリーに伝えることは出来ない。

ハーリーが好き。


大好き。


だからこそ、悩みがあった。




俺は、ポケモンだろ?
人間じゃない。

愛する、だとか、それ以前の問題。


生物の分類上からして、もう違うんだ。

だからハーリーは、ちゃんと、『人間』を好きにならないと。

その、愛情の沢山詰まった接吻も、嬉しいけれど。

でも、貴方は。




―・・・悔しい・・

この、指の無い、丸太のような腕が憎い。
全身に生えた棘が憎い。
緑色の、この身体が嫌だ。


「・・の・・」
「なぁに?ノクタスちゃん?」
口元に微かに笑みを浮かべたハーリーが、俺の漏らした声に反応して尋ねる。

「の〜・・」


貴方は、俺を愛しちゃいけない。
俺も、貴方を愛しちゃいけない。

だから、ねぇ。

その接吻をやめて?


そう思うのに、貴方は。


「大好きよ?ノクタスちゃん」
語尾にハートでもつけそうな、幸せそうな声で、俺に愛を囁くから。

だから、願ってしまう。
祈ってしまう。



貴方が、俺と同じなら
俺が、貴方と同じなら


俺は

貴方を愛することを許されただろうか―


もしも、許されるなら

俺は


叶いもしないこの願いを
必死で叶えようと足掻いただろう

足掻きたい
叶えたい

貴方を愛せるのなら

その接吻を
素直に受け入れていいなら


けれど


「・・の・・」


叶えられぬ願いと分かってるから。
いつか、それを思い知らされて絶望すると分かってるから。
足掻きようも無くて
結局、絶対の壁の前に屈するしかない。


俺は、どうすればいい?


どうしようも無く
貴方の愛に罪悪感を覚えるだけ?


この、棘の生えた身体では、貴方を抱き締めることも出来ずに。


「―ノクタスちゃん」

ハーリーが、棘の生えた俺の身体を抱き締めた。

「のっ・・のくっ!」
俺は、慌ててハーリーの身体を剥がそうとするが、ハーリーを傷つけないように、慎重に剥がそうとするので、なかなか離れてはくれない。

それどころか、ハーリーは更に強く俺を抱き締めてきた。
その腕に、微かに血が滲んでいるのが見えた。


「私、思うんだけど」

ハーリーが、そっと話し始めた。


「貴方は、『ポケモン』なのよね?」
「・・・!!」

分かっていたこと。
けれど
貴方から聞くと、その言葉はとても残酷に聞こえる。


「本当なら、貴方を愛しちゃいけないのかもしれない」
「・・・」

ハーリーのその言葉に、少なからず心を傷つけた俺が居た。
分かってても
それでも愛してほしかった。


「でもね?」

ハーリーの声が、段々、俺や、ハーリー自身に言い聞かせるようになっていく。



「貴方を愛する事に、躊躇いなどなかったわ」


―それなら。


「・・・のー・・」
俺は、そっと、ハーリーを抱き返した。

棘が、ハーリーに当たらないように。
ハーリーに、既に刺さっている棘を押し付けないように。

「―やっと、抱き返してくれた」
「の・・」
ハーリーが、安心したように呟く。
それが嬉しくて、申し訳なくて。
俺は小さく声を漏らすだけだった。




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