最遊記ストック

□dandelion
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 この男にロマンスというやつを求めてはいけないのはわかっている。思い返せばそもそもきちんと告られた覚えすらない。
 まさか庭一面に水仙を敷き詰めて告白しろ、なんてそんな夢見がちな事は言わないけど一言、たった一言でいいから言葉がほしいのだ。

 そんな人間だとわかってはいるけど、晴れた春の午後にこうして行き先も告げずに連れ出されると半分諦めもある中でもちょっと、いやかなり、わくわくする。

「ねー、」

「ん?」

「そろそろ教えてよー。どこ向かってるのこれ。」

「…ナイショ♪」

 …わけのわからない実験の被験者になれというのなら腹蹴って逃げよう。こいつならやりかねないから。というか今が逃げるタイミングなのかもしれない。
 でもなんだか繋いだ手を放すのも少し惜しくて、何も言わず付いてきてしまっている自分もいる。

 そんなことを考えている内に一面緑地帯になっている広い公園に着く。つってもまぁお弁当もないしピクニックってわけでもあるまいが。

「さて、着いた♪」

 草むらの端っこ、ちょっと大きな木陰に寄ると、実にあっさりと手を離した烏哭は思いっきり伸びをすると煙草を取り出した。

「や、ちょっと烏哭。ここに何しに来たのさ。」

「デート?それともタバコ吸いに?まぁいいんじゃないの偶には外でのんびりするのも。」

「んー、まぁ嫌ではないけどさぁ。」

「じゃぁはい、これ。」

 ぽす、っと頭に何か落とされた感じがして恐る恐るそれに手を伸ばすと綺麗なたんぽぽの花冠。

「ここに落ちてたやつだけどまだキレイだからあげるよ。」

「そ。」

「そんな膨れなくてもちゃんと僕は君が好きだよ?」

「は、」

 そして烏哭は咥えた煙草に火を点けて大きく吸い込む。

 きちんと好きと言われることに慣れていなくて顔が熱くなる。意外とこの恋も捨てたもんじゃないんじゃないかと思って、もう一度花冠に触れた。

(我ながらなんて単純)


(でもなんか、お姫様になったみたい)





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