最遊記ストック
□温かい雨
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どうしてこんな日に外に出ようなんて思ったのかわかんない。
…髪はきっと傷むだろうなぁ。それよりも前に八戒に怒られそう。
じーっと目を閉じたり上を見上げたり。あたしはこうしてしばらく雨の中町はずれの丘を散歩していた。
春の雨は温かい。しとしと、強くもなく弱くもなく長く長く振り続ける。
腕を、脚、それから顔を伝って行く水滴が血なのか雨なのか。
……さっき殺った妖怪は数知れず。自分のと、返り血と、とかくおびただしい量の血も全て流れていきそう。
不思議と傷口に雨は沁みない。
「…おい」
「………れれ?珍しいねぇ。」
振り向くと傘を差した我らが三蔵法師様。彼は普段雨が降るとめっきり機嫌が悪くなる。それなのに出歩くなんて明日は雨が降るんじゃないだろうか。(あ。もう降ってるか)
「…襲われたのか。」
「…大丈夫。全員殺った。」
三蔵はそっとあたしに近づいてきて、あたしの前髪を払ってくれた。冷たい手が上気した頬に心地よい。
「怪我の処置もしねぇで何してた。」
「んー、別に。ただなんとなく、だよ。ホラあたし女の子だから?意味もなくおセンチになる時だってあるわけだよ。」
「…言ってろ。」
今度は肩に三蔵の手が触れた、と思ったらふわっとキスされて、条件反射的に目を閉じた。
視覚を閉ざした後に感覚を支配するのはぬるい雨と、ぬるい空気と、熱い身体と、冷たい手、そしてあたたかい唇。
ゆっくりと、唇が離れて、三蔵はくるりと振り向くと町の方に歩きだした。
「帰るぞ。」
「ん。」
びしゃびしゃと、泥に塗れた草を踏んで帰路につく。
―――心配して来てくれたんだね。
なんだかそれがすごく嬉しくて、追いついてその手をとった。
「やめろ。汚れる。」
「へへ、」
さっきは冷たく感じたその手の温度が不思議と温かく感じた。
→あとがき