最遊記ストック2

□四月
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 “シツレンの痛み”…
 あたしは少々多めに見積もり過ぎていたようだ・

 5kg痩せる事も、
 ヘビースモーカーになることも、
 己の本分に向き合うことも、
 ―――――あの人を、忘れることさえも。


 結局何もできないまま、夜は明け月日は流れるんだ。




 四月





 “別れた”というのはあたしの大層な主観を通した出来事であって、実際は“偶に会っていた人物に全く会わなくなった”という言いかたの方のが正しいのかもしれない。

 もっと再起不能になると思っていた。
 常に会わなくたって、あたしが日々頑張れているのはあの人が居るからだと思っていた。
 だからきっと、あの人が居なくなったらあたしはやっていけないのだろうと。

 でもこうして、あの人が居なくなってもあたしは日々を過ごしている。
 それが誇らしくて、少しだけ悲しかった。

「これでも…長く居たつもりでしたし、理解した気になっていました。」

「そうですか。」

 もうすぐ春がやってくる。そんな匂いがする。
 人肌がなくったって眠れる。
 手を繋ぐ相手がいなくても暖かい。
 出会いの季節がなんぼのもんか。
 新しいものなんて求めていない。現にこうして古い友人を訪ねている。

「でもこうやって今…立ち直りが異常に早くって。なんだかそんな自分が信じられなくなりました。」

「“自分が”…ですか。」

「多少長い時間は共にしたんです、でも、こうも早く立ち直ったらここまでの時間が軽薄に思えて。」

「まぁそれが若さってヤツでしょう。おめでとうございます。」

「何がですか。」

「少し大人になれたことに対してです。」

「…大人になりましたかあたし。」

「多少は。そーゆーモンじゃないですかね。」

 大人ってなんだ。
 別れの辛さを知ることか。
 それともその現実から逃げないでこうして普通に生きている事か、あたしには全く分からないけど、光明は少なくともあたしよりは大人だ。彼が大人になったと言うからにはきっと恐らくそうなのだろう。

「……一つ、伺ってもいいですか。」

「何でしょう。」

「あたしは、薄情ですか。」

「…いえ、貴女はそれでいいと思います。少なくとも、いつまでも追い続けるよりは。」

「そーですか。」

 ヤンデレになるまいと、こればっかりは意識していたんだから当り前だ。
 だってあの人は間違いなく、重くなったら逃げる人だった。
 ミョーにプライドが高い。それで保てたとは思うけど、反面もっと可愛くなれていたらあの人は去らなかったのかと思う。たぶん一生答えは出ないのだろう。


「これでやっと貴女は私のものになるんですね。」

 、
 予想外。


「よくもまぁ軽々と…流石にまだ忘れきってはいないですよ。」

「…忘れてから次の恋を、と?」

「違いますか?」

「忘れる為の次の恋ですよ。」

「あたしは貴方と違って器用じゃないので、そこまで割り切れません。」

「それでもいいですよ。私が貴女を傍に置いておきたいだけですから。」

「相変わらず勝手ですね。」

「せっかく千歳一隅のチャンスが巡ってきたんです。みすみす貴女を他の男に渡すわけにはいきませんから。」

「どうしてそこまで、」

 こだわれるのか。
 例えばここであたしが拒んだって彼の生活は止まらない。
 明日からも同じように続いていく。
 この人はあたし以上に、誰かによって大きく変わる人じゃない。

「貴女が居た方が面白いと思うだけです。」





 ―――――今あたしがこうして“普通に過ごしている事”を意識している時点で、まだ多分あたしはあの人こだわっている。
 彼はそれを知っている。知った上で“あたしが彼にとって必要かそうじゃないか”という点ではないところに話を置いた。
 それが本当に他人に依存しないということなのだろう。




「貴方みたいになることが幸せなんでしょうかね。」

「…大人になったらわかります。」


 ちくしょう、あたしだって一応大人だってーの。
 それでもあたしはその意味を知る為に、

 その手を取る。










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