■対談『お礼Hは是か非か』


あかささ〜2009年3月〜

 
田尻 政治経済がらみのネタもやや枯れ気味。「野球」を語っても仕方ないし(笑)。来る夏を待ちつつ、性交の話でもしませんか?

大澤 いいですよ(笑)。今年一月のデータを見ると、性体験率は、女子高校生は四十六%、男子高校生は三十七%。八十七年には女子九%、男子十二%だったのが、九十九年には女子が十六%、男子が十三%になりました。ちょうどブルセラ女子高生が世に出てくる頃に逆転したんですね。そのあと一貫して、女子の経験率のほうが高い状態が今日まで続いています。なぜなのかについては僕のいくつかの論文で詳しく分析しました。


田尻 ふーん。十年前の十六%っていうのが、正直な回等ではなかったんじゃないの?女子高校生の数字でしょ。十七歳前後の女の子の性体験率が半分以下っていうのは、個人的な経験に照らしても、ちょっと信じられない。九十年代半ば、私が大学生だった頃の“遊びもお勉強も高偏差値”の女子高生って、みんなコンドーム携帯してたよ(笑)。

大澤 僕の調べでは、学校による落差がすごいんだよ。八割台のところもあれば、二割台のところもあるの。
あと面白いのは、「愛があればHしてもいいか」と尋ねると四十六%の女子がイエスと答えるんだけど、男子よりも圧倒的に多いんよね。両方のデータを踏まえて、「“愛があるから”よりも“自分を受け入れてくれたから”Hするんだ」とコメントしている。


田尻 それは旧聞に属する話。だけど、“愛とHは別モノ”っていうフェミニストのわりにまっとうな主張は、どうも届いてないみたいだね。


大澤 僕は何年も前から「承認の供給不足」の問題が性交にも影を落としていると言い続けてきたけど、「過剰流動性」の問題も指摘してきたよ。両方が絡んでいるわけ。
女子高生の典型的なスタイルを言おうか。第一に、カレシがどんどんかわる。第二に、元カレや前カレと完全に切れない。第三に、元カレや前カレその他異性の友人が、恋愛相談の相手になる。第四に、悩みを聞いてくれたり受け入れてもらったりしたら「お礼H」をする。


田尻 しかし、Hの充足の共有が精神的な相互需要にストレートにつながるっていうのは、どこから出てきた観念なんだろう。NHKの『真剣10代しゃべり場』とか見てるとティーンの子たちの間では、やっぱり“愛のない性交はダメ”ってところに落ち着くね。いまどき、こんなベタなテーマで番組が成立すること自体が私には驚異だけど。でも反響も、なかなかいいみたいですよ。


大澤 僕の調査結果を紹介します。九十年代半ばまでに、「ブルセラ・エンコー」で女子が性的にスゴイというイメージがメディアを席巻した結果、男子が“引き気味”になる。エンコーをどう思うかと尋ねると、女子の大半が「当人の問題じゃん」と答えるのに、逆に男子は半数が「いけないと思う」と答えるわけ。
実験授業で男女に分けてディベートさせたら、面白かったよ。女子が「なんでいけないのか説明しろよ」って言うと、男子が顔を真っ赤にして「ダメなものはダメなんだよ」って叫んで、女子が「バカじゃないの」と嘲笑する。男子はまるで既得権益を守ろうとする脆弱な抵抗勢力みたいな感じ(笑)。
九十年代後半になると、女子に主導権を委ねる“ミニ男”系がモテるようになり、並行して年齢逆転カップルが増えます。「ミニ男」ってのは、ガタイのでかいギャルに、犬みたいに引きずられて歩く男の子で、けっこう話題になったよね。
僕が命名した「かわいそH」も増えました。ふられてショゲている男子に、哀れに思った女子がHをしてあげる現象。同じ時期に、メル友現象が爆発して、相手にメル友が何人かいるという、流動性を前提にした付き合いをするようになります。それに並行して女子がメル友男子や元カレ前カレに恋愛相談するようになり、「お礼H」が一般化する。


田尻 ん?それは親身に相談に乗ってくれたお返し?相談しているうちに親密感が増して性交に至るわけ?

大澤 後者。取り引きって感じではない。“承認してもらったら、相手を承認し返すために性交するのが自然”っていう感覚ですね。知り合いの女子高生たちも、恋愛相談は男子にメールするのが日常だそうです。

田尻 へえ、そうスか。恋愛相談を持ちかけられて電話で答えているうちに、やがて深夜までファミレスかなんかでお話しするような仲になって、そのままホテルに行っちゃったなんて、ありふれたストーリーなんじゃないですか。


大澤 いや、それは我々世代がそういうナンパ・テクを使ったっていう話で(笑)、いまの子は自分周辺の親密さを、“ストック”ではなく“フロー”として維持する感じ。
一対一でクローズするという感覚が分からないという子も多い。元カレとの関係を清算しないのは、むしろ当然で、フロー感覚を維持したまま徐々に次のフェーズに移行する感じです。僕らの世代から見ると、彼女たちのいう「カレシ」とか「付き合う」という言葉の定義がよく分からなくなります。

■性交なき「親密性のモード」


田尻 性交に過剰なアクセントが置かれなくなったってことですね。前カレや元カレとちょこっと会って、なにかの拍子でHしちゃっても、あんまり葛藤はないし、今の男との関係が壊れるわけじゃない。
でも、そうだとすると、愛とHとの関係、もっと言えば、心の親密さとの関係って、どうなってるんでしょうかね。いや、そこでいわれる愛とか、無条件の受容ってなんなのか、ますますわからなくなるなあ、オジサンは(笑)。


<続く>

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