過去拍手小説

□2009・05・20
1ページ/1ページ

――偶然の奇跡に――
いつの間にか当たり前なような気がしていたけれど、
当たり前じゃなかったね。
そんな事、どうして気がつかなかったんだろう?

ふと視線を上げれば、森の中を歩いていた。
飛影と仲間割れをし、幽助と初めて会った、この森。
ココに来るのは何年ぶりか?
あの日以来、来てはいなかった。
思い出深い場所ではあるけれど、来てはいけないような気がしていた。
「蔵馬?」
呼んだ声は、優しさと喜びを含んでいた。
愛しいその声の持ち主に笑みを漏らしたが、同時に疑問が浮かぶ。
「幽助……どうしてココに?」
「先に来てたお前が聞く質問か? それ」
確かに、と呟くと、幽助はいつもと変わらない笑顔を向けてくれる。
「記念日だからな、俺達が始めて出会った」
「ん。そうだね」
蔵馬の返事を聞く前に、幽助は歩を進めていた。
なんとなく、その後を追いかける。
「何年たったっけ?」
「さぁ? 何年だったかな?」
本当はその答えは知っていたけれど、何故かそれを隠してしまう。
「けど、あれ以来、お前とココで会うのは初めてだよな。お前、来ねーんだもん」
「え?」
「毎年待ってたんだけどなぁ。ま、プレゼント一つあるわけじゃねーけど」
ケラケラ笑う幽助の表情に、ふっと申し訳なさが浮かぶ。
それから、喜び。

でも、何年たっても変わらない想いは、きっと、ある。
これから何年生きても、きっと変わらない……

「ねぇ、幽助」
そっと足を止めて振り返るその人に視線を向けて、まっすぐに見つめる。
「いつか、この森に桜を咲かせたら、見に来てくれますか?」
「嫌だ」
即答する彼に、そっか、と言葉を漏らすと、微笑みは苦笑に変わる。
ショックじゃないと言えば嘘になる。
でも、気持ちを押し付けるのは良くないよね。
「一緒になら、喜んで」
続けられた言葉。
一緒に……
一人じゃなくて。
本当に、この人にはかなわないなぁ。

「んで、たまには皆でぱーっと花見しようぜ! ぼたんとかコエンマとか……あ、雪菜ちゃん誘ったら、飛影も来るだろうし」
「しばらく会ってないですもんね」
「な。だから、綺麗に咲かせろよ?」
楽しみにしてるからよ――
蔵馬はこくっと一つ頷いて返事とする。

桜に、もう一つの想いが生まれそうな気がしながら。


――管理人より。
拍手ありがとうございます。
予定より少し更新が遅くなって申し訳ありません。
いい出来ではないですが……ちょっとでも思いが伝わるといいな、と思っています。
これからも随時更新していきますので、また足を運んで頂けると幸いです。

今回の音楽。 『花』 @ orange range

2009・05・20  森 優菜

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ