小説

□忘れても消える事はない
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これまで何十体屍を踏み越えてきた事だろうか、と阿伏兎は足下の死体を気だるげに見下ろした。この男もきっと自分と同じくらい人を殺していただろう。根拠こそ無いが、人は第一印象で大体の予想はつくもんだ。まぁ、そうでないやつもたまにはいるが。
ふと目線を自身に向けると、ソレの赤黒い返り血で自身は酷く汚れている。

同族の血――――、

そう思うと、少し後悔した。ただでさえ絶滅寸前だというのに。
阿伏兎は長い息を吐き、力が抜けたように座り込む。同時に、腰に激痛が走った。
「……っつぅ…………」
咄嗟に腰を押さえると、生暖かい湿気が伝わった。
どうやら返り血だけではないらしい。
軽く舌打ちして、立ち上がろうとするが、どうにも力が入らない。意識も白濁として、もう何が何だかよく分からない。
ふと、どうでもいい、と腰から手を力無く放した。
本当にどうでも良かった。というより、今は呼吸をすることさえ面倒だった。
放っておけばそのうち治るだろう。
そう意識を手放しかけた時、


「おじさん…………?」



か細く、トーンの高い声が聞こえた。まるで7歳くらいの少女のような、けれど探るような声。
いつの間にか閉じていた重たい瞼を上げると、そこには小さな少女が不安げにこちらを覗き込んでいた。
そんな可愛らしい姿が、このような血塗られた場所に居るのは随分と不自然なものだ。
その光景に煩わしささえ感じた。

「失せろ」

その声は低く、驚く程枯れていて、酷く威厳があった。
少女は何やら言いかけたが、すぐ唇を閉めた。
そして、そのまましゃがみ込んでしまった。
「………?」
少女のその不可解な行動に眉を寄せ、阿伏兎はそれを力無く、じっと見下ろした。








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