小説

□何事に関しても、はっきりした理由なんて存在しない
1ページ/8ページ

真選組屯所の部屋で、土方は始末書の整理をしていた。

最近は気温が高くなってきたせいで蒸し暑く、じめじめと湿気ている。おかげで頭に血が上って集中する事すらままならない。土方は舌打ちして作業を止め、部屋の障子を開けた。
少しは風が入ったものの、それも生温く、逆に不快だ。しかも雨が大降りだった。しかし、それでも作業に戻る気にはなれず、障子に寄りかかって外を眺めた。
まだ梅雨時だからか、昨夜からずっと雨は降り続いている。

ふと、視線の先に妙な影がある事に気付いた。
二人ぐらいだろうか、雨の中慌てて走って来ている。土方は訝し気に目を凝らした。
それが何者かを認識し、ぎょっと目を見開いた。

部下の総悟と、万事屋のチャイナ娘だった。

やや口喧嘩気味なのが雰囲気で分かった。







「つーかお前傘どうしたんでィ!いつも持ち歩いてんじゃねぇのか!?」
「何言ってるアルカ!!さっきお前が壊したんダロ!!」
「ショッボイ傘だな!!つか、なんで着いて来てんでィ!!」
「万事屋よりこっちのが近いって言ったのお前アル!!お前私を一人にして置いてく気だったアルカ!?」
「はぁ!?」

沖田は土砂降りの中立ち止まった。神楽は少し通りすぎかかって、睨むように沖田を振り返る。

「ふざけてんのか!!別にお前の事なんざ俺ァどうでもいいんでィ!!」
「うっさいアル!!あんまぐずぐず言ってっとそこの溜池にぶち込むゾ!!」
少女のその外見にそぐわない激しい言動に沖田は顔をしかめた。
そして思わず―――

「やれるもんならやってみろィ!!先に俺がでけぇモンお前の穴・・・・・・・・・っ」
沖田の口からあらぬ言葉が出かかった。
最後まで言い切る前に上からゴンッと重い衝撃を受けた。
その衝撃に沖田は少しよろけ、頭を押さえた。
「・・・っつぅ・・・・・・・・・」
同時に顔を歪めた。目に生理的な涙が浮かび、それを誤魔化すように鋭く後ろを睨む。

そこには傘を持った男が二人。驚いたような、焦ったような顔をした山崎と、拳を握り締め、呆れたような冷たい目で見下ろしている土方がいた。







.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ