小説
□迷子を見つけると何故か目を逸らしてしまう
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「あ、税金ドロボーだ」
後ろから声がした。
その言葉に土方は顔をしかめた。
声から察するに、少女が発したのだろう。
軽く舌打ちする。最近の子供は躾もろくに受けてないのか。何故年上に向かってあんな言葉が出るのだろうか。
「あ"?」
威厳を発して土方は後方を睨んだ。
しかし、そこには見るだけで誰もが怯むであろう土方の瞳孔を、動揺もせず見上げている少女、神楽がいた。
「んだよ、何か用でもあんのか」
あからさまに不機嫌そうにそう吐き捨てた。それに対して神楽は首を傾げて「怒ってるアルカ?」と、表情を伺ってくる。土方は鬱陶しそうに顔を逸らした。
「用がねぇならもう俺は行くぞ」
やっとの事で得た休日だ。誰にも邪魔されたくはなかった。
土方は再び足を進めた。
―スタスタ
――スタスタ
…………………………………………………………………………なんでついてくるんだ。
「………なんだよ」
土方は後ろを一瞥もせず後ろの少女に投げかけた。
「…………………」
反応はなかった。それには土方の眉根がぐっと寄った。
思わず立ち止まって後ろの少女を振り返った。すると神楽も立ち止まり、こちらを見上げる。
どこか不安気な顔で。
「………?」
流石の土方も戸惑った。
この少女のこんな顔を見るのは初めてだった。
「どうしたんだよ」
躊躇いながら訊くと、
「別に」
と素っ気無く返された。
けれど神楽の表情は変わらない。
一体何だというのだ。
まっすぐと自分に向けられている神楽の大きな瞳は普段とは全く異なったものだった。
思えば態度も妙だ。
いつもなら出くわすとすぐに気の強そうな目をして憎まれ口を叩くだろう。
ところが今はどうだ。
どこかよそよそしい上、上目遣いでこちらを見つめてくる。
まるで捨てられた子猫が、親猫を探し求めているような――――
―――…ん?
土方は辺りを見回した。
そこは歌舞伎町の隣町の繁華街。多くの人で賑わっていた。
土方は確信して神楽に視線を戻した。
「お前、さては迷子だろ」
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