小説

□サディストになり切るのは難しい
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神楽は散歩に出ていた。
なんとなく、暇だったから。
しかし、だからといって退屈な事に変わりはなかった。どうして歩き回るだけの事を、楽しいと言えよう。



神楽はふと足を止めた。

顔をしかめて細い路地に目を向ける。


多量の血の匂い――――


神楽はそちらに足を向けた。
しばらく進んでみれば、五人くらいの死体が血の海の中、転がっていた。


神楽は死体の前にしゃがんで覗き込む。


「――…可哀想か?」



その声にぎょっとし、振り返った。
そこには黒い外套を羽織った男が立っていた。
神楽がこれから先記憶から離れないであろう人物。


「また会ったな。……まぁまたいつか会えると思ってたが」

阿伏兎は少しかがんで話しかける。
それに対して神楽は不機嫌そうに睨み上げた。

「これ、お前がやったアルカ」
神楽が死体に指差すと、彼は鼻で笑った。
「馬鹿言うなよ。いくら俺でも、理由無しにバンバン殺せんよ」

「じゃあ誰が「そいつ等は勝手に殺し合いを始めたんだ」


その言葉に神楽は顔をしかめて死体を見下ろした。


「こいつ等は攘夷浪士かなんか知らねぇが、なんか言い争いになっててな、一人が暴走してその結果………」


神楽はふと疑問に思って首を傾げた。
「なんでそんな事知ってるネ?」
彼の言い方はまるでその場を見物していたかのような言い草だった。
それなら何故、止めなかったのだろう。

けれど神楽はすぐその疑問を掻き消した。奴はそういう男なのだ、と。

「たまたまそこを通りすがってな」

阿伏兎はそれだけ答えた。
神楽は再び睨み上げる。けれど彼はその反応を楽しんでいるかのように顔を弛めてこちらを見下ろしている。
嫌いだ。こういうのは。
小馬鹿にされているような、情けない感覚。

「お前嫌いアル」

神楽はそう吐き捨てた。
けれど阿伏兎は一切気にした様子もなく、「だろうな」とせせら笑った。






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