小説

□サディストになり切るのは難しい
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喉がいがいがする。
吐き気はなんとか治まったものの、口の中が胃液の味で気持ちが悪かった。

神楽は人気の無い、少し薄暗い場所に運び込まれた。阿伏兎は神楽をそこに下ろした後、来た道を一瞥した。そして長い息を吐いた。
「危なかったな。あんな所で見つかりでもしたら即犯人扱いだ。
くだらねぇゴタゴタは御免被るぜ」

阿伏兎は神楽に視線を向けた。
対して神楽は喉の調子を整えようと咳払いをしていた。
「…のど飴ならあるぞ」
「……いらないアル」
神楽は不機嫌そうに拒絶した。
「強情を張るなよ。顔色悪いぞ」
「別に、平気アル。そこまで優しくしてくれなくても結構ネ」

その言葉に対して、阿伏兎はじっと神楽を見据えた。
神楽はそれを不審に思い、「何アル?」と見返した。
すると、阿伏兎は口端を上げた。

「……俺が優しいか」

その言葉に神楽は眉を寄せた。


どう考えても、あれは「優しい」の部類に入るだろう。もしあれが「優し」くないのであれば、どう表現すれば良かったのだ。

「ん………」
なんだか意味が分からなくなった。
沈黙も続いていて、なんか息苦しい。




「………ねぇ」
「…ん?」


呼びかけたものの、次に出すべき言葉をまだ用意していなかった。
神楽は焦って、何でも良いから言葉を出そうと声を発した。



「飴、ちょうだい」







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