短編小説

□Y,H,L,M  V
1ページ/2ページ

一足先に、小平太とタカ丸が長屋へ上がり込んだ。

「いっちばんのりー!」
「ひー…ひー…、小平太君…尻尾伸びた…」
「そりゃ引っ張ったら伸びるだろー」
「化け猫にはっ…尻尾の本数…強さの象徴…はぁ…はぁ…」
「尻尾で見栄張るより実力だ実力!なははは!」

息切れしている姿とはまさに対照的だった。小平太はずかずかと荒れた長屋を歩
き出した。これではノウマに狙ってくださいとでも言っているようだ。
ダムダムと音が鳴る度、タカ丸の耳や尻尾の毛皮がぞわりと逆立つ。

「…ノウマ…見つかる…はーっ…はーっ…もちょっと静かに…っ」
「早くおびき寄せてさっさと倒すんだー!抜け駆けだぞ!」

タカ丸は早足な小平太に懸命についていくからか、息切れは止まらない。

崩れた天井の梁には夕日がさらに濃く当たり、隙間から見える空は少しずつ青に
染まりつつあった。烏は天狗の山へ帰るのか、夜に飲み込まれる前にと焦ってい
る。徐々に廃墟の薄暗さと気味の悪さは増してきた。
小平太は無論気にもしないが、タカ丸はいつまでたっても追いつけない。

流石に気になり、顔色を伺いに戻った。

「お…おい、タカ丸!大丈夫かよ。それでも妖怪か?」
「ひー…ふー……、ぐ…くるし…」
「俺が尻尾引っ張ったからか?」
「違うと…おも…うっ」
「おいおい!」

袖で顔を押さえ、改めて荒い息を落ち着けようと試みている。

「どうしてこんな?」
「なんか…凄い霊障が…」
「霊障ったって…」

小平太には霊感が皆無で、実体化した者しか見えない。そのせいで為す術がない


「タカ丸、おまえ出ろ!外!」
「うん…でももうちょい頑張るぞ…」

顔をあげると、札を手首に巻き立ち上がった。
すると、後ろから何やら突き進む嫌な音が聞こえてきた。でてきた二人は、同時
に叫んだ。

「このバカ小平太ああ!!!!」

耳がはちきれそうな勢いで大声が響いた。留三郎と文次郎である。

「妖怪退治の専門家抜きで抜け駆けかお前ッ!」
「最古の妖怪である鬼様に黙っとるとはどういうことだ!」
「お前らっ!それより、ここはやっぱりヤバいらしいから早く退治したら帰るぞ
!」

タカ丸の顔色の悪さが一目で分かる程にもなっている。邪気の塊である文次郎に
も、環境の悪さが身にしみてわかる。
こういう身体の不調には、奴が欠かせない。

「そうだタカ丸、伊作に診てもらえば良い!伊作ー!」

振り向くが、返事がない。それどころか来る気配すらない。
隈の濃い顔が引きつり、角の下に青筋が浮かんだ。

「ったくあのクソエイリアンどこ行きやがった!まさか帰ったんじゃあるまいな

よし!探してこい豆腐天狗!」
「えっ!あ、あぁはい、わかりました!タカ丸さん、暫し辛抱を!」

一瞬構えると、再び砂埃を少々たて消えた。ひとまず彼にまず託そうと、安堵し
た。
しかし、その時。

奥に、無いはずの真夜中がポッと生まれ、そこから無数の黒が彼らを襲った。
火矢が大量かつ水平に飛んでくる様にも見え、きっと全うに受けたら蜂の巣だろ
う。

「みんな伏せろッッ!!!」

いち早く気付いた小平太は促す。そしてタカ丸も倒す。

「タカ丸、ここは危険だ!やっぱりお前は出ろ!」

反応がなくなり、ぐったりとしている。改めて危機感を感じ、また目の前の現実
に目を見開いた。
黒い人型が迫ってきており、血の気が失せた。

「しまった…」


だが素早く前に繰り出た団蔵が、鬼の怪力でそれをせき止めた。

「ぐぅうッッ」

巨大な相手を小さな体で押さえつけるのは、流石に限界がある。ブルブルと震え
る腕、低く唸る声はそれを物語る。
団蔵がキッと睨むと、その闇からギロリと目が開かれた。

「ひっ…」

その目玉が視界に飛び込んだ瞬間に、その視線は脳裏を貫く。

「うぁああっ!!」

恐怖に体が竦んでしまい、力負けして吹き飛ばされてしまった。留三郎がそれを
受け止め、入れ替わりで文次郎が飛び込み、拳を突き入れた。
闇は更に飛び、物体とも思えないその身を轟音を立てながら衝突させた。

「コイツが…ノウマ?」

留三郎には途轍もない霊障が感じられた。そして比例するように、タカ丸はのた
うち回っている。爪を立て頭を掻いたり床を削ったり、今にも猫にもどりそうな
酷姿がそこにあった。

「タカ丸!」

引きずり連れて行かせるしか無いかと考え、手を伸ばした。
が、その手は突然生じた爆風に阻まれ、
共に破壊音が天井に響いた。
嵐の如く巻き起こる粉塵の中見上げると、夕焼けの空と、伊作、乱太郎、久々知

乱太郎が構えているところを見ると、どうやらプラズマで破壊したらしい。
先の重い空気が、冷たい風に従いどこかへ消えた。

「伊作!乱太郎!遅いんだよッ!」
「実に申し訳無い。今すぐ加勢する。」

二人はもの恐ろしいノウマを目の前に、飄々とした顔で降り立つ。そして、伊作
が経のような呟きを早口に唱えると、こう言いつけた。

「嫦娥守者の奥義、玉兎の法!」

同時に背中を押された乱太郎が合掌し、穏やかに平手をパンと叩いた。
音速が伝わる速さで波動が続き、その高い音に応えるように空間が歪む。

ノウマのみならず、周辺の物質という物質軒並み白く爆発した。

「ば…爆弾ウサギだアイツ…。伊作も気を流して…」
「いや、待て!まだ生きている!」

妖怪なら、文次郎の渾身の一撃と伊作と乱太郎の業を食らっては一溜まりも無い
はず。
しかし相手が悪かった。

「くっ…」

周りが吹き飛ばされようと、ノウマには関係ない。何の支障もなくむくりと起き
上がりゆっくりと二人へ近付く。
二本手が生えて気味の悪さも増している。
そして鞭のようにしならせ片手を振りかぶり、廊下に巨腕を叩きつけた。

「こんのくそったれがあああ!!!!!!」

そこに隙を見た留三郎が金鎚を執り、腕を伝って駆けノウマに急接近する。強力
な業故に、逆に土埃で目眩ましとなっていた。

止まるノウマの目玉に、全身で一撃を加えた。

「くっ…まだか」

着地した直後も体勢を構え、攻撃に備えた。が、ノウマは動かず目玉には亀裂が
現れ、そして体中に穿っていく。
崩れる闇の塊の中からは

一人、青年が現れた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ