短編小説

□Y,H,L,M
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奴は果たして恐れ多き存在なのか?そんな訳があるまい、こんな真冬に、夕方に
、肝試しの券売など?
間違いなく足が少々透けていたり、人魂が幾つか付きまとっていたりはしている
が、妖怪の類いではここまで信頼度はなかろうに!

…―と、食満留三郎は端から見てそう思っていた。

「お兄さぁん、肝試し行きませんかー!って、用兵隊の食満さんじゃないッスか
、こんちは〜」
「こんちはじゃなくてなぁ…きり丸、亡霊がこんな真っ昼間に歩いてて不自然な
んだよ!」
「え〜。不破先輩だって図書館司書の手伝いいってんのにー」
「それも不自然だ!そんな金が欲しいのか?あぁ?」
「生き甲斐が欲しいんです」
「お前死んでるだろ!!」

摂津きり丸。僅か10歳で生を失ったという亡霊である。その陽気でケチな性格か
らは、どうやって、どうしてこの有り様に化したのか予想もつかない。
彼の友…―同じく亡き者、中在家長次の下に住んでいる。

「それだからこそ、存在が看板になるっていうか」
「きり丸みてーなちっこい亡霊じゃあ怖くも何ともないぞ?」
「ホントの俺は怖いんだからっ!」

そう言って亡霊は、券を一枚押し付けた。その拍子で彼はつい、くしゃりと握っ
てしまった。

「あーあ、それじゃあ売り物になりませんねぇ〜」
「まさかテメエ…」

にたーとその亡霊は笑い、目を銭に光らせ手を広げた。

「はい!毎度あり〜!」

渋々彼はその小さい手に、5銭相当を乗せた。









―…よし、年上を嘗めてかかってるきり丸の奴を…肝試しをぶち壊しにして痛い
目見せてやる。そうだ、知り合いの妖怪総動員で行かせよう。伊作と乱太郎、タ
カ丸と…その仲間の久々知も誘おうか。あと文次郎に小平太…仙蔵は下らんとか
言いそうだから止めとこう。さぁて、どうしてやろうか…

大変に大人げない留三郎である。
それを早速伊作のもとに言いに行けば、情報傍受のスペシャリストであるあの妖
怪が、流出に向かった。





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