長編小説  瞑月

□四話
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惑星フィチナ。永遠の極寒の中、首を少々傾ければ大きい月が目にうつる。
太陽の熱は月の影で多く届かず、この厳しい環境が生まれてしまった。現在気性コントロールを行い惑星全体に生物は住める状態なのだが、移民達は母星・コーネリアの四季が恋しくなるだろう。

グレートフォックスが着陸したのは、ビルの連なるフィチナの中心街とは真裏に位置する無人研究所である。軍部は設置のみで機能する研究所は手につけない。今では完全放置状態と見なされ、隠れ里と、ならず者スターウルフの中継所と化している。
軍も軍だが、敵に甘える彼等の考えもどうかしている。

地上に降りてみれば既に夜9時に回っており、寒さは厳しさを増していた。

「うううっ!寒っ!流石フィチナあ〜」
「一時的なもんだって蛙くん。中に入れば余熱がガンガンに出てるし。」
「中の装置そんな負荷かかるの?」
「よく知んないけど、そうじゃないかね?」

研究所の勝手口らしき手動の扉を開ける。中から洩れる暖気に惹かれる。寒さに弱いスリッピーやファルコは躊躇なく施設へ足を踏み入れたが、ただ一人フォックスだけ立ち止まっていた。

「どうしたのさフォックス、敵だからって気にしてるの?」
「月に行ったのにバレてないのを確認できるまで匿ってやるのに。」

言うが、首を横に振る。真剣な眼差しでいることに気付き、パンサーはフォックスに近づき目線の先を眺めた。
飄々と冷ややかに聳える月。

「…不思議だ」
「ん?どうしたんだ狐君」
「まず軍に見張られてない事…。法律で禁止されてるんだろ。」
「確かに…、天使が軍には見えないしな」
「当の天使が、ベテランパイロットには…」
「いやいや、外見似てたよ。ただ、ホログラムみたいにぼんやりしていた」
「パンサーの千里眼じゃ表面は見えないのか?」
「んー…歩く顕微鏡みたいな感じだから、発光体はうまく見えない」
「月は太陽と惑星ソーラの光を反射してるんだが」
「まあいい、明日の朝試してみる。だが、天使は近くじゃないと見えなかったぜ」
「それに加え、ファルコの言ってた背筋に悪寒…」
「攻撃しても無音」
「ぐらぐらとした動き」
「透明に弾ける機体」
「…」
「…」

物理的にあり得ない経験を直に感じた、とつくづく二人は思った。それだからこと解き明かしたい気持ちにさせ、考える。
だが、ピンとくる物はいかにも曖昧な存在で。

「…あ〜…まさかウルフの旦那…」
「思い付いたのか?」
「苦手だからあんな脱力してたのかも
幽霊とか…」

「…まあ、妙に判りのいい苦手な奴には苦手かもな」
「そう考えると、意外なとこに笑えちゃうなぁ!」
「フッ、戦い恐れず幽霊恐れるのか」

同時に頭に浮かんだのは、適当で可愛い幽霊に追いかけられ必死で逃げるウルフ。もう二人には宿敵や上司という言葉はない。

「…ぶっ…」
「くくくっ…」
「うははははははっ!ウっウルフがっ……ははははは!」
「ぶはははははこれ旦那聞いたら青ざめるかもなぁ!」
「楽しそうだな、何外で大声で笑ってんだ?」
「旦那がさあ!今まで見てきて幽霊が嫌いなんだって…」

口端が痙攣して怒りを露にし、腕を組み立っている
ウルフ。

「あ、旦那…あは…あははは」
「パンサー、フォックス、テメーら誰様を笑ったかわかってんだろうな」
「幽霊嫌いなウルフ様だ」
「ぎゃあああ!狐コルァ!言っちゃダメだ!」

どんな形であろうと敵意は無くさないのか、とことん腹を立てさせる気だ。パンサーの誤魔化しも意味がない。
ウルフが掴みかかってきた。

「その礼儀知らずな軽い脳ミソをスナック菓子にでもしてやるよアホ狐…ッ!」
「攻撃しか能のない奴がよく言う、犬はキャンキャン吠えてろ。」
「俺様は狼だっつってんだろ!!いい加減今決着つけてやろ…」

勢いある物言いが突然止まる。
何かと思えばウルフの目が、ぎょろりと横を向いた。まるで、月を気にするかのように。

「「えっ」」

声が重なる。どこかウルフが、何かの眼を恐れている表情に見えたのだ。
背を向け、悔しそうに「チッ」と舌打ちをし研究所へ入っていく。

呆然と立ち尽くす二人。

度々聞くウルフの言動はどうにも不審で、それには月が関わりを持っているということがわかる。

月で何があるのか。
月が何を示すのか。
解ってるのは彼なのかもしれない。



どうしてか、影は濃くなり
一段と空の白珠が輝きを増していた。


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