戴きもの

□嫉妬
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400 & 444 hit 剣薫SS

 
 
 
 
覗くつもりなんかなかったの。


たまたま見掛けた剣心の姿。


声をかけようとしたら女の人に話し掛けられている貴方が見えて…


私、隠れてしまった。


直ぐにその場を離れればよかったのに、何故だか一歩も動けなくって‥


聞こえてきたのは剣心に想いを伝えるその人の声。



剣心は私のものよ!


そう言いたかった。

でもそんな事言える訳なくて。

モヤモヤした気持ちを抑えて、その場を離れた。







「薫殿〜、ただいまでござる」


「……おかえりなさい」



剣心の顔が見れないよ…









先刻から薫殿の様子がおかしい。


いつもなら拙者が帰ってくると、笑顔でおかえりと迎えてくれるのに今日はその笑顔がなかった。


それからずっと拙者の眼をみてくれない。
顔すらも合わせてくれないでいる。


続く沈黙に耐え切れず、拙者は口を開いた。



「か‥薫殿?」


「……なに?」


「あ‥その、何かあったのでござるか?」


「何で?」


「何で…って、薫殿機嫌悪かろう?」


「…私が機嫌悪いんじゃなくって剣心が機嫌良いだけなんじゃないの?」



…おろ?
拙者の機嫌が良いとは薫殿はおかしなことを言う。



「そうよ!だから私が普通にしてても剣心には悪いように感じるんでしょ!」



そう言われても、薫殿がご機嫌ナナメなのは明らかで…


もし薫殿が拙者に機嫌の事を指摘されたくないのだとしたら?


考えれる理由はあの事か…


「薫殿」


「ハイ‥」


「見てたでござるな?」



そう言って笑いかけるとみるみるうちに薫殿の顔が曇っていく。



「答えるでござるよ」



答えを強要すると、薫殿の肩が震え物凄い勢いで拙者を睨みつけてくる。


口は開いていても声は出ておらず、首から上が真っ赤に染め上がっている。


薫殿の感情がそのまま瞳に浮かぶ涙となりあらわれている。


何も言わなくても、その瞳が拙者のことを好きだと告げている。



「薫殿の不機嫌の原因がわかったでござるな」



何てことない。

昼間に受けた告白を彼女は見ていたのだ。



「拙者、名前も知らぬような者に色好い返事を返さぬよ」



嫉妬をされるのもなかなか粋なものでござるな。




拙者が話せば話すほど薫殿はその瞳を染める。



堪えるでござるよ。

懸命に自制をせねばならぬほど、薫殿が可愛くて仕方がない。


口元なんて緩むのを抑える事すら必死だ。



好きな女子をからかう童のようになってしまう拙者。



「薫殿」


「かおる……」



まるで童だ、などと己を省みる余裕などない。



その顔が


その態度が


その総てが。



拙者を甘く、愚かにさせる。




「〜〜っ!剣心なんて大っ嫌い!」




今までの沈黙を壊すかのように叫びだす薫殿。



口にするのはなんて甘く可愛い嘘。
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