オリジナル

□夢路 appear in one's dream
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風が毛並みを逆立てた。


息が荒い。


心の臓も、鼓動を激しくしているのが感じ取れる。





もう、どれくらい走り続けているのだろうか。


胸が苦しい。


足が重い。




でも。



はやく、見つけないと。








「アリス」








息切れしながら言ったその言葉は


風の音に紛れて聞き取ることが出来なかった。










































ひとり、少女が木陰の中にたたずんでいた。




少女がいるその陰の元である木は、見れば巨大な大木。


大木は、枝から伸びた生い茂る葉を、風にまかせて散らしていく。


少女がまとっている蒼いワンピースや、ブロンドの髪にも、深緑な葉が数枚落ちている。



少女はワンピースと同じ、蒼い瞳でそれを見つめている。


だが払うこともせず、焦点の定まっていないような瞳でぼんやりと。





「夢、だったのかな」





ぽつりと、少女は吐息のような小さな声を漏らした。







わたしが不思議な世界に訪れたこと。


あれは、夢だったの?







少女のぷっくりとした桜色の唇は、先ほど言葉を発した後から閉じることをせずに呆けていた。




少女は悩んでいた。


それは、数ヶ月前のこと。






数ヶ月前、少女は時計を持ったうさぎを見つけた。


そのうさぎは、二足歩行で走り、しゃべっていた。



その不思議なうさぎに興味をいだいた少女―――アリスは


うさぎを追いかけ、迷ってしまった。



迷ったその先は、不思議な出来事ばかり。




アリスは奇怪な体験をしつつも、結局は夢という形で終わってしまった。







でも、夢にしてはあまりにもリアルだった。







アリスは、そのことについて悩んでいるのだ。




「どこからどこまでが、夢?」




言いながら、その言葉はため息に変わった。





あの時計うさぎは一体どこから来たの?


あんな空間は一体どこにあったの?


あのあと、女王様とトランプ兵士たちはどうなったの?





最後にクエスチョンが付く疑問ばかりがぽんぽんと頭に浮かんできて、アリスの思考回路はぐるぐると渦を巻いていた。









そんな、アリスが思考を廻らせている中


少女の頭に衝撃は起きた。















がつんっ!













鈍い音と共に、少女の身体は跳ね起きた。



アリスの細く、白い手は、己の後頭部を押さえている。


蒼い瞳は若干涙を溜めて。




「な・・・!?」




ズキズキと痛む頭を押さえながら、後ろを振り向く。




いままで、ずっと自分が身をあずけていた大木。


後ろには、それしかないはずだった。




なのに。





大木の前に


自分が今さっき居たところに




うさぎと、ねこがいた。






二匹とも、なぜが息が荒い。




アリスは、ぱちくりと眼を大きくした。





この子たち、どこから来たの?





そして、気になることが数点。


さっきの衝撃はなに?


どうしてうさぎとねこがここに?


呼吸が正常じゃないのはなぜ?


そして、―――――なんで二足歩行で立っているの?





また言葉の後ろにクエスチョン。


悩みが増えた、とかそんなどころではない。



もしかすると、自分はおかしいのではないだろうか。




一度、お医者さまに診てもらったほうがいいのかしら。






「あなた、アリスという方をしらない?」






急に、うさぎがしゃべりかけてきた。


息を切らして、途切れ途切れに。




アリスは肩をびくりとあげた。





しゃべった…。





しゃべるうさぎ。



数ヶ月前に、その存在を見せしめられた。


けれど、それは自分の夢の中だけで。






また、夢・・・・・・?






これは、夢のなかなのだろうか。



だとしたら、いつ、自分は寝た?








えぇと、こういうときどうするんだっけ。



そうだ、頬をつねるんだ。





そうすれば、夢か現かわかるんだよね。








「ちょっと、約束が違うじゃない」




頬をつねろうとした途端、うさぎはまたしゃべりかけた。



でも、今度はわたしにじゃなくて、隣りにいるねこに。




「アリスのいるところに出るんじゃなかったの?」




うさぎの口から、また、自分の名前。



そういえば、うさぎがしゃべったことの方が勝って、自分の名前が出てたことなんて気にしていなかった。






このことが気になって、もう、頬をつねることすら頭にない。








なんで、わたしの名前を?








このうさぎに、遭ったことはあっただろうか。




いや、うさぎも自分を探していたのだから、わたしをしらないのだろう。






じゃあ、どうしてわたしを探しているの?






「知らねぇよ。そんなの、誰にだって間違いはあるだろ」


「知らないって。そんな、また探さなきゃいけないじゃない!」





ねことうさぎの会話。




ねこも、しゃべった。


うさぎがしゃべったのを目の当たりにしたので、ねこに関しては驚きが数段減っていた。





うさぎはしゃべり口調から言ってメス、いや、女と言った方がいいのだろうか。



ねこは、男だということが感じ取れた。







じっと二人の会話を聴きながら、二人を見ていた。






だから、気づいた。







うさぎは、時計を持っていた。



首からぶらさげてある、うさぎのちいさな身体には不釣り合いな、大きな時計が。


大きいと言っても、人間からすれば手のひらサイズの大きさだけど。





ねこの方は、紫と黒の縞模様が入った毛色のねこだった。


見たこともない色。




そう思った直後、ふと、紫とピンクの毛色のねこが頭をよぎった。





二匹のこの動物。







面影がある。





時計うさぎと、チェシャねこに。
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