十一番隊 弐

□一角と弓親の出逢い
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(2016.11.13〜2017.2.26拍手夢)


貴族同士の政略結婚はよくあること──


僕の代の綾瀬川家はイマイチ精彩に欠ける貴族だった。

昔は名家だったとよく聞くが、過去の栄光が何だと言うのだ。

名家の姫君の婿養子に『嫡男』の僕が選ばれた時点で、もう終わってる。

『綾瀬川家のご次男では姫君と歳も離れていますから・・・』

フン、どうだか。

結局、代々受け継がれた気品も、落ちぶれた貧乏貴族にとっては二の次。

援助と引き替えに婿に差し出されるのだ。


美しくない・けれど。

同じ退屈な日々なら、名家の婿養子として美しいモノに囲まれる生活の方が良いかもしれない。

文句を言う理由もなくその縁談を受け入れた。


体(てい)よく醜女をあてがわれた気分ではあったが、そのまま結納前夜を迎え、この立派な屋敷で休もうとしていた。

・・・おかしいな。

「はぁ、何か足りないんだよね」

目の前には美しい着物や宝物類。こんなきらびやかな結納の品々を前にして、ため息が出るなんて。


「うーん。明日、結婚相手と逢ったら何とかなるのかもしれない・かな」

たとえ醜女でも、話してみると可愛いところがあるかもしれない。


縁側に寝転がり、月を見上げた。視界に広がる星空と月。

あれ?今日って満月だっけ・・・

「・・・月が2つ?って、何者!?」


屋敷の塀から顔を出したハゲ頭の男は明らかに不審者だった。

「よっ・と」

軽く塀から飛び降りて、その男は僕に向かって歩いてきた。

流魂街の風体の男・・・

スラリと伸びた手足。着物の上からでも解る鍛えられた肉体。

不覚にもこの僕が見惚れてしまうなんて。

ハッと気付いた時には、その腕が僕に絡みついていた。


「俺は斑目一角。ついてこいよ。姫さんの見たことねぇ世界を見せてやるぜ?」


「見たことない、世界?」


考えたことがなかった・・・別世界、『家』を捨てるなんて。

綾瀬川という名字は好きだったから。



「うおぉぉ!?・・・テメーっ、女じゃねぇよな???別嬪の姫君が玉の輿で、えーと、アンタじゃねぇのか」

僕のことを女だと思っていたらしい『一角』は慌てて僕を突き放す。

「いたっ、痛いなー。って・・・は?君は此処に何しに来た。まさか・・・顔も知らない姫君を攫おうと?」

「・・・ああ、悪いかよ」

「ぶはっ!」

ふて腐れて横を向く一角に、僕は大笑いする。こんなバカ笑い、いつ以来だ?

笑って涙まで流すなんて。

「わ、笑いすぎだろっ。チッ、息切らせてまで笑うな。俺はだなー・・・これでも人助けのつもりで」

「はっ、はぁっ、でも、花嫁と花婿を間違えるって」

「うるせー。テメーが女みてぇな格好してるからだろ・・・けど、まぁいいか。手っ取り早ぇ。用があったのは寧ろアンタの方だ」

「・・・は?」

そう言われ、一歩後ずさるのは本能だろうか。真剣な顔で迫られても、男はごめんだ。


「美しい僕に一目惚れされても、僕は男はちょっと・・」

「ちっ、違ぇよ!馬鹿野郎っ。俺は強いヤツに逢いたかったんだ」

「・・・ふーん?」

「明日この屋敷で結納するヤツはかなりの使い手だと聞いた。どんなに温厚な野郎でも、自分の婚約者を掻っ攫われたら本気でかかってくるだろうと・・って、フン・・・イイ表情じゃねぇか」

僕の霊圧に気付いたのか一角は身構えた。

「俺の名は斑目一角。名乗って戦うのが俺の流儀だ」

不思議だ。

美しい結納の品々を見たときより高揚してる。

この男の攻撃的な霊圧に感化されたのか。

「いいね。ゾクゾクするよ。僕は、綾瀬川弓親」


──何て楽しそうに闘うんだ。


僕の退屈な日々は今日で終わる。

生きてたら、この男と同じ世界を見てまわるのも悪くない。




・・・

討伐から帰ると、辺りは真っ暗になっていた。

十一番隊舎で、一服しながら瀞霊廷通信をパラパラめくっていた手を思わず止める。

「あ、これって・・・」

「何だ?面白ぇ記事でもあったか、弓親」

一角がのぞき込んでくる。

「へぇ、貴族の紹介ページか。檜佐木のヤツ、ネタ切れなのか」

「そうだね、貴族が家族写真を載せるって珍しい・・・」


ある家族が幸せそうに笑ってる。


そのページには、昔、僕が婚約破棄された名家の姫君の姿があった。隣には優しそうな夫と子供達・・・


結納前夜に傷だらけになった僕と一角を、こっそり手当てして逃がしてくれたのは彼女だった。

好いた男が居るという姫君は、醜女だという噂とは程遠い 美しい女性だった。

「この女、見たことあるような・・・?」


必死で思い出そうとしている一角を残して、庭に出る。

あの夜のように、美しい月夜だ。

「貴女は相変わらず美しい。でも僕もこの世界を手に入れたから」

美しい貴女との生活を想像することすら出来ない程のワクワクする戦闘に明け暮れる日々。


・・・一角という『月』に導かれたのかもしれない。


一角の頭を月と間違えたことを思い出すと、ひとりプッと吹き出した。



end


弓親が俺を「つき」だって?ああ、俺はツイてる男だからな。


一角は意味を知ることはなかったらしい・笑

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