十一番隊 弐
□肉食女子
1ページ/1ページ
(2016.11.13〜2017.2.26拍手夢)
「あー、なんか久々に『肉』食べたい気分」
そう、がっつりと。
鍛錬後、汗を拭きながら呟いた私に、手合わせしてくれていた一角が汗を拭きながら反応する。
「あァ?いきなり何だよ。肉、食ってねぇのか?でも『更木隊の肉食女子』ってお前のコトじゃなかっ・・」
「ちょっ、一角!」
鍛錬を見学していた弓親が慌てて一角の口を塞ぎに来る。
・・・いいのよ。知ってるよ、弓親。
十一番隊の席官の私は他隊の隊長格とも親しくしてるから、影でそう呼ばれてるって。
特に、修兵や恋次って女の子から人気あるから、仲良くしてれば当然・・・
でも、乱菊さんぐらいになると人望もあってそんな陰口もきっとない。
同性の私だって憧れる女性だ。比べて私は──
要するに人気のある男の相手として、私程度の女じゃ、周りは受け入れられないってことよ。
「弓親、私は気にしてないよ」
バツの悪そうな弓親にニッと笑ってみせる。
「・・・僕は友人として本当の君を知ってるから安心して。醜い誹謗中傷はすぐに消えるさ」
弓親が優しくそう言ってくれると何だか涙が出そうになった。
「ありがとね」
一角は何だか自分のコトのようにムッとしている。
「・・・気に入らねぇな」
「一角も気にしないでよね」
「・・・」
そのあと弓親がやちる副隊長に呼ばれ、鍛錬場に一角と2人きりになってしまった。
困ったな・・・一角は眉間に皺をよせたまま、空気は重いまま。
こんなとき、私はおどけて笑ってみせる。
「えーと、私ってば、この戦闘集団で唯一の乙女なのにね?あは、でも飲み会は好きだからねぇ」
ホントは自己嫌悪したり傷ついたり、内面は乙女なんだけど、どうしようもない。
一角も笑って『自分で乙女とか言うなよ』とか言ってくれると思ってた。
なのに、一角は私の方を向かず低い声で言い放った。
「・・・ちょっと調子に乗ってたんじゃねぇのか。副隊長殿に口説かれてよぉ」
「え・・・?」
あ、れ?
責めるように言われ、ズン・と身体が重くなった。
一角の耳にも入ってたんだ。
先週の飲み会、居酒屋の廊下で修兵に告白されたところを他隊の女の子に見られて──
人の口に戸は立てられない。
その噂がどう広がったのかなんて知りたくもないが・・・心のどこかで一角や弓親だけは、私がどんなに人に悪く言われようと、目の前の私を見て判断してくれる仲間だと思っていた。
「・・・噂通り、私が隊長格に色目使ってるって、一角は・・思ってる?」
引きつった頬を何とか動かして問いかけると、背を向けたまま一角の声がした。
「・・・口説かれたのは事実なんだろ」
一角に誤解された?
ううん、そもそも私が思わせぶりな態度をしてたのかもしれない。女性に優しい修兵に告白されて悪い気はしなかったのは事実だし。
一角が 目の前の私を見て判断した結果なら、誤解なんかじゃなく自分が悪いのだと素直に受け止めなきゃいけない。
でも・・・一角に、嫌われた?
その怒った表情は私へ向けたモノだったのね。
馬鹿な私。自惚れにも程がある。
どんな噂が流れようと、一角は私の味方だと信じてたなんて。
今はそれが何より辛い。
「それ、は、一角には関係ない」
泣いちゃいけない。女の武器使ってるって思われたくない。
「何だよ、それ!檜佐木にはっきり言ってやれよっ。テメーには惚れてねぇって」
修兵にはとっくに断ってる。でも一角の迫力にびっくりして私は頷くだけ。
「絶対、野郎と2人きりで逢ったりすんな。あと同情や親切心も無用だ。男っていうのは・・・そういうもんだ」
ただ
振り返って私を見て真っ赤になって声を荒げて説教(?)する一角が私を嫌っていない事は伝わってきた。
女心は存外単純なのかもしれない。
「・・・はは、一気におなかすいちゃったよ。一角とお肉食べたいなぁ。」
「馬鹿野郎っ!へらへらすんなっ。テメーはそんなだから他の男に・・・」
何だか一角の苛立ちが凄く嬉しい。
嫉妬だって自惚れちゃうよ?
「一角にならビッチと罵られてもいいよ」
「ハァ!?テメーは馬鹿かっ」
「あ、でも2人きりで逢うのはダメなんだっけ。一角も男だし」
「俺はいいんだ!問題ねぇ。よしっ、俺と2人きりで肉食うぞ!覚悟しておけ」
「う、うん」
鋭い眼光に思わず怯む。
堪えた涙もいつの間にか乾いていた。
覚悟って・・・
食事したら、その後どうなるんだろう。
私は『肉食女子』と言われても仕方ないぐらい期待していた。
──ピッチだぁ?俺は一途なお前を一番知っている男だ──
そう言われる日は遠くない。
end
貴女は焼き肉?すき焼き?笑