十一番隊 弐
□余韻
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(2015.11.15〜2016.2.11拍手夢)
「もう一週間だよ、一角」
いい加減にしてよね・と弓親が執務室を出て行く。
「・・・そーだな」
府抜けるのも、飽きたところだ。
窓の外を見れば、色付いた葉が木枯らしに吹かれながらも 舞い散ることを拒むかのように揺れている。
「俺も・・・足掻いてやるさ」
『綺麗な紅葉ね』
初めて彼女と会話したのもこんな季節だった。
──俺が十一番隊に配属されたとき、彼女は七番隊の席官だった。
彼女の美貌はウチの隊まで評判になっていて、俺も弓親に誘われ一度七番隊に見に行ったことがあった。
そのときの『大人しそうな女』だという印象は、強引に言い寄った俺の上司を「私、強い男が好みなの」と一撃で倒した時に、見事に吹き飛んだ。
彼女を助けようと踏み出した足が、止まってしまう。
このままじゃ、この場に居合わせた俺も馬鹿な上司と同類と思われるか?と些か気になって動揺したとき、彼女は「綺麗な紅葉ね」と微笑んだ。
「・・・ア、アンタ、さっき十一番隊の隊士に絡まれてただろ。すまねぇ」
「ふふっ、何で貴方が謝るの?」
「それはその、アイツは一応俺の上司だったから」
「過去形なのね」
「俺は斑目一角、まだ席次はねぇが強くなる男だ!」
豪語する俺を一瞥してすれ違いざま「そう、頑張ってね」と彼女が言った──
思えば、その時から俺はその女に惚れていたんだ。
それから何年経っただろうか。
三席になった俺と射場さんの部下の彼女が顔を合わす機会は増えたが、俺はまだ踏み出せねぇでいた。
彼女は憶えちゃいねぇだろうが、俺にとっては大切な思い出のまま。
先週、俺の誕生日という口実の宴会で、彼女に注いでもらった酒は格別に美味い。
「斑目三席、お誕生日おめでとうございます」
当然、酒はすすんでゆく。
「なぁ、祝ってくれよ」
「斑目三席、酔ってるの?」
後から思えば、彼女の言う通り、美味い酒に酔っていたんだろう。
それでも意識はハッキリしていた。
「好きだ。俺は強くなった。アンタを手に入れる!」
「ちょっ、貴方、大丈夫?酔ってるでしょ」
いきなりの告白に、彼女は俺から目を逸らせた。
「・・・」
俺は無言で彼女の頬に人差し指を乗せる。指が払われなかったことに気持ちが高ぶる。
「?」
指に視線が移ると、今度は反対側の頬に指を動かす。
「え、何?何かついてるの」
そして、指を彼女の鼻へ移動させると自然と目が合う。
「・・んんっ!」
俺を見た彼女が・・・堪らなく愛しい。
柔らけぇ。ずっと味わっていたい。
「勘違いしないで・・・抵抗しなかったのは、貴方の誕生日だから。恥をかかすわけにもいかないから」
宴会の最中で、酔っ払って無理矢理口付けたんだ。本来なら昔の俺の上司のようにぶっ飛ばされてもおかしくはない。
ただ、彼女の頬が染まっていたのは酒の所為か?
11月9日の宴会はそのまま解散になり、俺は帰り道 射場さんに説教されたが、あまり記憶はない。
彼女の肌、唇の感触がずっと・・・俺を支配していた。
翌日から七番隊は遠征に出ている。
「もう余韻だけじゃ足りねぇよ。待ってられっか」
唇をなぞると、苦戦して長引いている七番隊の遠征討伐を追いかけると申請した。
「一角、行くのかい?」
弓親も待っていたかのように戦闘準備をサッと済ませる。
「で、勝率は?一角」
「・・・聞くなよ。ぶっ飛ばされても彼女は護るさ」
「美しくはないけど、イイネ」
余韻に浸っている場合じゃねぇ。
戦利品をこれほど望んだ戦いは、かつてない。
・・・行くぜっ!
end
「あはっ、つるりんの頭が光った☆」
「勝ち戦に気合い入ってるんですよ、副隊長」
弓親が楽しそうに答えた。