□鬼の夢・第9章
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「島原より此処にいてくれるほうが、俺としちゃあ 安心だな」
そう言って左之さんは以前と変わらない笑みを私に向けてくれる。
私が鬼だと知った今でも―
千姫と君菊さんが帰った後、山南さんは何か思案している様子だった。
土方さんも鬼の狙いが千鶴ちゃんだとはっきりした事で、何だか厳しい表情が余計に・・・
「前に使ってた部屋を使え」
そう言い残して広間を出て行った。
局長を含め幹部達は それぞれ自室に帰ってゆく。
「Sちゃん、今日はゆっくり休んで。・・・落ち着いたら 里のこととか聞かせて欲しいな」
「千鶴ちゃん・・・」
こくりと頷くと彼女も部屋に戻って行った。
私は暫くその後ろ姿を見つめていた。
私達は この新選組に多大な迷惑をかけることになるのかもしれない。
もしかすると・・・千鶴ちゃんだけならまだしも私が居ることで余計に―
私の両親が私を護り 命を落としたことを不意に思い出す。
「よせ。考え過ぎんじゃねーよ」
「えっ!?」
驚いている私の肩にポンと手を乗せ、左之さんが目の前でニッと笑う。
「どうせ、新選組に迷惑をかけるとか考えてたんじゃねーのか?」
「どうして―」
声に出していた訳ではないのに。
「ははっ、お前の顔に書いてあるんだよ」
「そっ、そんなことないですっ」
「・・・その方がいいんだよ。前より正直に顔に全部出せばいい。辛いなら泣けばいい。怒って、悲しんで、笑って・・そんな色んな表情が見てぇんだ」
「左之さん・・・あのっ、私に出来ることがあれば何でもします。剣術も・・・使えます。もし、風間達が来たら私も・・・戦います」
そうすることで此処にいられるのなら。
必死の思いで告げる私の肩にもう片方の手を乗せ、左之さんは私に向かい合った。
「女のお前を危険な目に遭わせる訳にはいかねーよ」
「でも・・・」
「いいか、たとえ鬼で剣術を使えるから・と言っても、Sは女だ」
私は真摯な瞳から目を離すことが出来ない。
「私のこと・・・気味悪くないですか?」
そんな問いかけを一笑してくれる。
「お前も千鶴も可愛い女の子だよ。俺の気持ちは変わらない」
その言葉で、私はずっと抱えていた不安から解放された気がした。
何があっても―――この瞬間 そんな覚悟が生まれたことに自分自身ですら、まだ気付かずにいた。