□鬼の夢・第5章
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沖田さんと斎藤さんが帰ったあと、私は置いてもらっている角屋の主に明日から座敷にあがるように言われた。

置いてもらっている以上、君菊さんも店の方針には逆らえなかった。

そんな私の元へ、早速 千姫が姿を見せた。


「ごめんねー。千鶴ちゃんが本気でSちゃんのことを心配してるのを見ると・・・島原で見かけたって、教えちゃったのよー」

千姫は屈託のない笑顔で私に告げる。

「ただ、角屋の名前は出してないの。ほんの少しの時間稼ぎだけどね・・・」

時間稼ぎ・・・それは、私達がこれから どう千鶴ちゃんに関わるべきかを考える時間。


「風間達の動きも気になるし、彼女に告げる時は私達が保護する時でいいかしら」

千姫の提案はありがたいものだった。


私は、千鶴ちゃんに自分が鬼だという事実をまだ伝えたくない。

自分が人ではない異形の者だという事実は、人間として育った彼女には きっと辛いものだろうから。

うすうす感じているのと、その現実を目の当たりにするのとでは大きく違うはず。

使命として近付いた私は 今、心底彼女の事を心配している。


ホッとする私を余所に君菊さんが冷静に答えた。

「ですが、一部の隊士はすでに此処に来ました。私の話も半分信用していない隊士達に、彼女が鬼だと知られるのは時間の問題では?」

千姫はフッと哀しげな笑顔を見せた。

「そうね、ほんの少しの時間かもしれない。でも、彼女があの人間達と共に過ごしたいと願っているなら・・・たとえ一時でもそれは貴重な時間なのかもしれないわね」


鬼として生まれ、主として育てられた千姫も千鶴ちゃんのことを・・・

彼女に、自分の叶わない夢を託したいと願うのは私だけではないんだ―


「Sちゃん、千鶴ちゃんには今まで通り・・・雪村家の主としてではなく友達として逢ってくれる?」

その問いかけに私は頷く。

「もちろんです。沖田さんに見つかった時点で、再会は覚悟していました。でも『見つかる』のではなく、今は彼女に『逢いたい』と思っています」

そう言う私に、千姫は「そっかー」と微笑んでくれた。

「逢いたいのは、千鶴ちゃん?それとも、原田っていう隊士かな?」

「それは・・・」

千鶴ちゃんや左之さんにすぐに逢いたい気持ちは嘘ではない。けれど・・・斎藤さんと帰る時に沖田さんが言った言葉がずっと心に残っていた。
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