□鬼の夢・第4章
1ページ/4ページ

――できることなら、新選組の人とは まだ会いたくはなかった―


島原に身を置くことになった私は、新選組の人達と遭遇することを避けて、見習いとして下働きをさせてもらっていた。

君菊さんの付き人という名目で角屋に住み込みで働く私に、同じ店にいる太夫達も親しく話しかけてきてくれる。

私も 彼女たちの着付けを手伝ったりして・・・身体を動かすことで現実逃避していたのかもしれない。


でも中には、君菊さんの人気を妬む太夫もいて・・・

『うち、扇屋の饅頭が食べたいんやわ。Sちゃん、アンタ座敷にも上がらん下働きやろ。ちょっと買ってきてんか』

「えっ、私・ですか・・・」

扇屋という店は和菓子の老舗で、島原から結構 離れた処にある。そんな遠くの店を指定したのは 嫌がらせなのかもしれない。

「ちょっと、お前はん、何を・」
「私 買ってきます」
「Sちゃん・・・」

君菊さんが止めに入ろうとしてくれたが、私は敢えて買いに行くことにした。

心配そうに私を見る彼女に、私は元気に答える。

「大丈夫ですよ、君菊さん。気をつけて行きますから」

私が断れば、あの太夫は余計に気を悪くするだろう。この店にいる以上、もめ事は避けたい。ましてや、君菊さんの負担になりたくない・・・


「足の怪我も癒えてますし、大丈夫です」

私は複雑な思いで、自分の足を見る。

風間の血を飲んで戻った私の鬼の力・・・以前より、強く感じるのは気のせいだろうか。


「ほな、Sちゃん・・気をつけて」

無言で頷く私を君菊さんはまだ心配そうに見送る。

気をつける・というのは・・・風間に、そして新選組に見つからないように。


完治した足を見ながら扇屋に向かう私は、鬼の気配を消して、巡察の道順からも外れるように行動していたつもりだった。

ただ・・・帰り道、脇道から出てきた白い小さな猫が足に擦り寄って来て、思わず足を止めた。

『ニャアー』

―チャリン

首に巻いた紐には鈴が付いている。飼い猫だろうか。人懐っこい真っ白な仔猫に私の気も緩んでしまった。

「猫ちゃん、あなたも主とはぐれたの?」

千鶴ちゃんと会えない自分と重ねて話しかけ 撫でてやると、余計に懐いて甘えてくる猫。

「ふふっ、可愛い・・・」

― しゃがみ込んで猫を撫でる私の前に、急に現れた人影は ひょいっと仔猫の首を掴み上げた。

「はぁ、シロ、やっと見つけた。ったく、飼い主さんが心配してるのにこんな処まで・・・って、君―」

顔を上げた私を見おろす浅葱色の羽織の主は、ゆっくりと口角を上げてゆく。

「・・・沖田さん!?」

驚く私は、逃げる事さえ出来ないでいた。


「Sちゃん、こんな処で君も見つけるとはね。さてと、君の飼い主は どこの誰なのかな?」


今更思っても仕方がないのだろうけれど、油断した私が・・・馬鹿だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ