□鬼の夢・第3章
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私が京へ来たのは、雪村千鶴を護るため。
本家である雪村家を影で支えるのは、分家でもある片桐家に生まれた者の使命―
両親を失い 祖父に引き取られた私は、ずっとそう言い聞かされていた。
祖父は決して優しい人ではなかった。里の者の 私を見る目も優しかったわけではない。
母は『人』である父と恋に落ち・・・里を出て行った。
母は、里を捨てた裏切り者。
西国の鬼との同盟のため政略結婚するはずだったのに・と、母を非難する声は、幼い私の耳にも届いてくる。
優しい両親の笑顔を侮辱された気がして・・・私は、悲しかった。寂しかった。
1人で泣いていると、曾祖母・婆様が私の頭をよく撫でてくれた。
祖父の厳しい剣術訓練を受け 礼儀正しく振る舞うことで・・・私が立派に里長の孫として『女鬼』に成長することで、両親への非難の声は嘘のように止んだ。
それは、子供心に 両親のことを悪く言われるのが辛かった私が里で身につけた知恵だったのかもしれない。
人の血が混じっているとは思えないくらいの鬼の力を見せつけることで、里の者の私を見る目は蔑みから『里の誇り』に変わっていく。
いつからだろう・・・祖父の言うことを聞き、周りの者から褒められることしか出来なくなっていたのは。
婆様はそんな私の頭を黙って優しく撫でてくれた。私の心は泣いていたのだろうか・・・
祖父が亡くなり 里を出るとき、婆様は私に言った。
『後悔しないようにお生き。お前の母様も決して後悔はしないと里を出て行った。意志を持った立派な女鬼じゃったよ』
正直、自分のやりたいことが何なのか 私にはわからない。母様のように、添い遂げたいと想う相手もいない。
ただ・・・自分の祖先達が護ってきた主君に逢ってみたいと思った。
言われるままに護るのではなく、私にも何か『使命』以外の・・・『自分の』やりたいことに出逢えるかもしれない。
―そんな期待を胸に、京に来たんだ。