□鬼の夢・第1章
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新選組の屯所では、暑いさなかに大掃除を行っていた。

何でも、松本医師の行った健康診断の結果がかんばしくなく、まずは衛生面から・・・清潔な環境を作るとか。

私も足の傷を松本先生に診てもらった。

順調に回復している。「人」並に・・・

癒えてきた足を庇いつつ、私も 伝う汗を拭いながら片付けを手伝う。


「ねぇ、Sちゃん。Sちゃんはどうして京に来たの?」

手を動かしながら訊いてくる千鶴ちゃんに、私もお皿を片付けながら答える。

「千鶴ちゃんはお父様を捜すためなのよね?私は祖父を亡くし・・・京の親戚の家を訪ねたのだけど、もう誰もいなくて」

「そう・・・」

「行くあてもなく、いっそのこと島原へ・と思ってたら絡まれて・・・怖かった。千鶴ちゃんと左之さんに出逢わなかったら、私・・・。どうやら 私には島原で男相手に働くのは向いてないみたいね」

ニッコリ微笑んで千鶴ちゃんを見るが、彼女は自分の事のように悲しそうな表情のまま笑い返さない。

「・・・千鶴ちゃん?」

「えっ、あっ、ごめん。ねぇ、Sちゃん。その傷が癒えたら、やっぱり此処から出て行かなきゃダメなのかな」

ギュッと私の手を握り、真っ直ぐ見つめる千鶴ちゃんに、私はチクンと心が痛む。


俯いた私の視界に入った背後からの影。

「おいっ、千鶴。テメーは何考えてやがる。同情するのは勝手だが、コイツにはコイツの生きる道ってのがあるんだ。とやかく口出すんじゃねぇ」

「土方さん・・・でも」

「千鶴ちゃん、私のことはいいから。さっ、早く片付けちゃいましょう、ねっ?」

土方さんに目を付けられたくなかった私は慌てて片付けを続けた。


「Sちゃん・・・」

「千鶴が励まされてやんの。情けねーなー」

「ムッ、平助君ったら。でもね、私Sちゃんとは初めて会った気がしなくて。放っておけないんだ・・・」

「ありがとう。千鶴ちゃん」

そのまま平助君と話す千鶴ちゃんを残して、私は箱に入れた食器類を倉庫に運ぼうと立ち上がる。


「おい、S。俺が持ってやる」

「あっ、左之さん。このくらい大丈夫ですから」

私の荷物を奪い取るように取りあげ、左之さんは歩き始めた。

「ほらっ、何処へ持ってきゃいいんだ?一緒に来いよ」

振り返った左之さんに、私は「はいっ」と答えてついて行った。
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