黒子
□16話
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「何故、わからないのだよ」
「教え方が下手なのだよ」
「緑間くん説明下手すぎ」と机に突っ伏すなまえに、緑間は眉を上げた。この男は口数が多いわけではないが、結構顔に出やすい。ちなみに勉強を教えて欲しいと言ったのはなまえであった。
「じゃあもう教えないのだよ」
「人事を尽くすのだよ」
「くっ…」
なまえは内心「チョロすぎ」と笑った。そこそこ勉強が出来る(何故なら一度履修しているから)彼女にとって、勉強についての頼みの綱は緑間だけなのだ。だから何度かお願いをしてこうやって勉強会を開いているのだが、毎度のことながら彼の説明はよくわからない。
「いや、少ない休日まで付き合わせちゃって申し訳ないとかありがたいとかは思ってるんだよホント。でもさ、緑間くんの説明って最低3回は聞かないと理解できないんだよね」
「なら俺に頼らないで授業の中で理解すればいいのだよ」
「それが出来てたらさ、私だってわざわざ緑間くんの学校近くまで来ないっつーの」
くるくると回していたシャープペンシルが勢いよくなまえの指から離れていったその時、二人の背後から大きな影が出来た。
「あれ、緑間じゃん。お前何やってんの?」
「宮地…さん?どうしたもこうしたも、このバカ女に勉強を教えていたんですよ」
「こんにちは、みょうじなまえです。バカ女じゃないです、緑間くんの説明が下手すぎるんです」
「お、おう」
宮地はなまえの勢いに軽く圧倒されながら、二人の前に開かれた教科書をちらりと盗み見た。確かにその単元は理解するにも説明するにもなかなか手強いところであった。初対面のなまえの理解力の程度は図りかねるが、緑間の説明力ではまず無理であろうと宮地は確信した。
「あー、そこはちょっと難しいかもなー。しかもここわかってねーと後々響くしな」
どっこらせ、と宮地はなまえの隣に腰掛け、緑間からシャープペンシルを1本借りた。
「でな、まずここにこの計算式の答えを当てはめて、」
「わ、スゴい!出来た」
「わかったらここの練習問題やってみ。やり方は今教えた通りでいいから」
「はい、えっと……こう、ですか?」
「正解、じゃあ次はこれな。これはさっきのを応用して…」
「おぉ、さっき緑間くんがさっき言ってた説明がこんなにすぐに解る時がくるとは。宮地、先輩?ありがとうございます」
営業スマイル全開のなまえに宮地はハハ、と笑った。まさか自分の勉強をしに来たところ他校の女の子に教えることになるとは宮地も予想外であった。初対面ではあるが、高尾から彼女の話は聞いていて、少なからず興味があったので役得だ。
「優秀な先輩を持ってる緑間くんのおかげだね、緑間くんもありがと」
「べ、別にいいのだよ」
「このツンデレめ」
改めてお礼を述べるなまえと軽く頭を下げる緑間に手をひらひらさせ、宮地は身長差のある二人の背中を見送った。高尾の言うとおりなまえは美人であり緑間と並ぶとかなり様になってはいたが、あの緑間が圧されるほどの性格は予想以上だと宮地は改めて思いながら、鞄から教科書と参考書を取り出した。