黒子
□12話
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ようやっと退屈で拷問のような補習を終え、部活に顔を出す気もさらさらない青峰は、「だりー」と呟いて学校を後にしようとしていた。そこでふいに視界に映ったのは、一人黙々と制服姿のまま洗濯物を干すなまえの姿であった。自分と同様に非常にかったるそうであった。
「あいつも補習か?んなわけねーか…いや、数学だったらありえるか。おい!」
少し声を張ってなまえを呼べば、くるりと彼女は声の主である青峰へと視線を向けた。
「補習帰りにさつきにでも捕まったか?」
ニヤニヤしながら彼女へと歩みを進める青峰に対して、なまえは口を尖らせた。
「補習じゃない…忘れ物をし…」
たの、と言い終える前になまえの意識はフェードアウトした。
***
「おいさつき!」
「青峰君!?もう部活始まってるんだからねっ、てなまえ!?ちょっ、大ちゃんなまえに何したの!?」
「なんもしてねーよ。なまえ用にドリンク作ってすぐ保健室まで持って来い」
「わ、わかった」
それだけ伝えて、青峰はなまえを抱えて保健室のある方角へと脚を急がせた。
「いつも俵担ぎされてるみょうじさんがお姫様抱っこしてもらってる…」
「アホか桜井、熱中症のやつ俵担ぎするアホがどこにおんねん」
「すいません…えぇぇぇ!!熱中症!?」
***
「ん、………保健室……………あー」
覚醒し切れてない上に妙な倦怠感に苛まれつつも、意識を戻したなまえは状況を把握した。推測から確信に変わったのは、身体をひんやりと冷やす氷枕達であった。
「気持ちい…」
「おー、起きたか?」
びくっ、となまえが肩を揺らして顔を向けると、座っている青峰の姿が視界に映った。
「助けてくれてありがとう」
「おー。なまえ、起きたんならまずこれ飲んどけ」
差し出されたボトルを受け取り、口に含んだそれは程よい濃度でなまえの身体に浸透していく。ふぅ、と飲み口を離すと、大きな手が額に触れ、本日2回目の肩ビクッである。するとその手は器用に、額に張り付いていた髪を退けた。口が半開きのまま再度青峰へと視線を向けると、普段はあまり見せないような穏やかな表情でなまえを見つめていた。
「………な、なに」
「別に…まー、なんだ…それ飲んだらまた横にでもなってろよ」
額に置かれたままの大きな手でぐっと押され、なまえはまたひんやりとしたベッドへと体を沈めた。そこで初めて自分がベストを脱いでブラウスのボタンがいくつか外されていることに気付いた。
「ねぇ」
「あ?」
「下着、見たでしょ」
「なかなか俺好みだったな」
死ね、と青峰に呟いて彼女は瞳を閉じた。