黒子

□11話
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桐皇と海常の試合は、なまえが今まで観たどんな試合よりも熾烈を極めていた。スポーツだというのにこの試合、特に青峰と黄瀬の1on1は最早格闘技のようであった。
ブザーが鳴り響いたと同時になまえは観客席を立ち、黒子や火神が呼ぶのも聞かず足早に会場を後にした。





***





先輩たちと別れ、暫く今日の試合の余韻に浸っていた。前を向け、と言われてすぐにホイホイと切り替えられるほど、軽い試合ではなかった。少なくとも俺の中では。だが、だからと言って後ろを見て感傷に浸れるには少々荷が重かった。





「黄ー瀬」


「ヒッ!?」





急に頬に冷たい感触がして、振り返ればペットボトルを持ったなまえっちがにっこりと笑って立っていた。





「なまえっち……」


「はい、頑張ったで賞」


「あ、ありがと」





ペットボトルを手渡され、一口それを含むと身体全体に水分が行き渡りすぎたのか、ポロリと涙が頬を伝った。あぁ、女の子の前で泣くとか、俺マジかっこわりー……





「なまえっち、ごめんっ俺、」


「お疲れ様。今日の黄瀬、すごいかっこよかった。だからこそ、泣いてもいいんじゃないの?」





ほら、と言ってなまえっちは腕を広げた。それを見た瞬間、堰を切ったかのように涙がボロボロと溢れ出し、ついには嗚咽まで漏れてきてしまった。これはもう、彼女に甘えるしかないようだ。





「なまえっちー!俺、俺っう、うぅ…」


「うん、うん、悔しくて当たり前だよ。逆にヘラヘラしてたらフルボッコして泣かしてた」


「ヒドいっス〜」





ぎゅう、と彼女を強く抱き締めれば、なまえっちは俺の背中を優しくさすってくれた。なまえっちの首筋に顔を押し付けると彼女の匂いでいっぱいになって、安心したのか余計にボロボロと涙が止まらなくなった。悔しかったからと言うよりも、今は緊張感から解放されたからのような気がした。





***





「やっぱかっこわりーっス」


「そー?悔し泣きする男って、案外女の子ウケいいんだけど?」


「いや、それでもやっぱ男としては見せたくないもんっスよ」


「まー、そうかもね」





今、なまえっちは俺の右足首に湿布を貼ってくれている。流石というか、彼女には本当にかなわないと思った。彼女の話だと青峰っちも肘を痛めているようだが、それは桃っちにメールしてると言う。それより、観戦しているだけのなまえっちが湿布を持っているとは驚いた。





「どう?」


「ちょうど良いっス」


「やっぱ持って来て正解だったわ、湿布。キセキ同士が対決とかもう、ヒヤヒヤものだもの。特にあんたたちだったらもう無傷じゃないなって思ったんだよねー。てか、海常(そっち)のマネージャーは何もしてくれなかったの?黄瀬嫌われてるの?」


「いや、嫌われてないっス!なまえっちヒドいっス!てか、…なんで青峰っちのとこには行かなかったんスか?なまえっち桐皇じゃないっスか」





ふと、何故彼女が自分の学校ではなく俺のほうに来たのか気になった。桐皇に彼女の仲の良い友人がいないから俺のところに来たというならまだわかるが、青峰っちも桃っちも彼女にとっては親友と言っていい部類だ。そこを考えると、俺の中でひとつの期待が膨らみ始めた。





「だって黄瀬んとこ行った方がリアクション的に面白いじゃん。青峰くんとこ行ったって「あ?んなもんあたりめーだろ?」って言うに決まってんじゃん」







今まで嬉しかった自分が恥ずかしいっス

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