黒子
□8話
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桃井から青峰を探してこいと言われたなまえは、探すのが面倒で携帯電話を取り出した。
「あ、もしもし?今どこにいるの?…うん、うん、わかった。今からそっちに行ってもいい?はいはーい」
役目を終えたそれをバッグへしまうと、彼女は屋上へと向かおうとしたが、その前に自販機でココアを購入した。
「お待たせ。はい、バレンタイン」
「おー。んな甘ったるいもん飲めるかよ」
「私の好意を無碍にするなんて酷い!今からさつきと先輩たちに連絡しないと。屋上で部活サボってる青峰くんが私からのバレンタインを受け取ってくれません、て」
「うぜーーー」
彼女の手からココアを受け取り、プルタブを開けた。「あめぇ」と顔をしかめる青峰をよそに、なまえはこれ見よがしに緑茶のプルタブを開けた。
「俺のと交換しろ、なまえ」
「酷い!私の愛が伝わらないなんて!」
「ふざけんな、お前それわざとやってんだろ」
「んもー、仕方ないな。はい、交換」
緑茶を手渡したなまえは、そこで彼の横に可愛らしいラッピングがたくさん詰まった紙袋を見つけた。彼女のその様子に気付いた青峰は「食うか?」と聞くが、なまえは首を横に振った。
「青峰くんて意外と優しいよね」
「あ?なんでだよ」
「だってさ、ちゃんと貰ってあげてんじゃんそれ」
彼女が指さすそれは、まさしくチョコレートである。主に手作り。この面の男にそんな可愛らしいものをプレゼントする女の子たちの根性すげぇな、となまえは少々違う角度で考えていた。恐らく自分が同じものを渡すとすれば、黄瀬か黒子がせいぜいだろう。ギリギリ紫原か。この3人は腹の中は分かりかねるが、とりあえずは受け取ってくれるはずだろう。
「折角寄越してきたんだからいらねーなんて言えねーだろ。いらねーんだけど」
「あんたホントいい子ね。受け取ってる青峰くんのイメージが全然浮かばない」
「おい、食わねーのに何袋開けてんだよ。ちゃんと片付けろよ」
思いの外数の多いそれに、なまえは思わず「おぉ」と感嘆の声をもらす。しかも意外と本命度高めである。
「で、なまえの分は?」
「え?さっきさつきと桜井から貰って、お昼休みの時に…」
「お前が貰った話なんて聞いてねーよ」
手のひらをチョイチョイと動かして催促する彼を見て、なまえは眉を下げて笑う。「仕方ないなー」と彼女はバッグから小ぶりの包みを青峰の大きな手に乗せた。
「手作りじゃねーのかよ」
「お店のやつのが美味しいでしょ?ちゃんと青峰くんも食べれるかなって思って買ったし。それにそのチョコ、結構イイトコのやつなんだけど」
「お、美味い」
「でしょ?」とどや顔のなまえに、青峰はたった今彼女から貰ったばかりのそれをひとつ、彼女の口元へと差し出した。
「んー!美味しい!流石私ね。さて、と」
「どっか行くのかよ」
「んー、これから黒子くんと火神くんにチョコ渡しに行くの。一緒に行く?」
「めんどくせー。どうしてもっつーなら行ってやってもいいぜ?」
素直じゃないな、とへらりと笑って二人は屋上を後にした。
「お前さつきはいいのかよ?」
「さっき“帰ってた”って送っといた」