黒子
□5話
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「なぁ」
「んー?」
「お前何カップ?」
「そういうことは聞くもんじゃないよ。はい、これ持って」
作ったドリンクを青峰に手渡したなまえは、それを持って行けと指示をして洗濯機のある方へと歩みを進めた。己の本能に従順に従う青峰のことを、彼女は好意的に感じている。だがそれは彼女の精神的な年齢が彼らのそれを上回っているからにほかならない。きっと心身共に同年齢であれば、なまえとて顔を赤くしていたであろう。
よっこらせ、と洗濯カゴを持ち上げたその時、なまえのジャージのポケットから機械的な振動が彼女の意識を向かわせた。
"久し振りっス!なまえっち今晩暇っスか???今日俺撮影で桐皇の近くまで来てるんスけど、ディナーとかどうっスか?"
先程まで胸のサイズを聞いてきた男と同級生とは思えないほどに慣れた文章である。友人を誘うような文章ともデートのお誘いにも取れる絶妙なバランスである。流石女の子にフられたことがないと豪語するだけはある。
"今日さつきのヘルプしてるからその後でいい?だいたい5時位には帰れると思うよ。お迎えよろしくね、王子様"
"勿論っスお姫様の仰せのままに!!"
***
迎えに来てくれたゴールデンレトリバーもとい黄瀬涼太はよく喋る。まるで女子会をしているかと勘違いしてしまうほどである。自分の先輩に女の子を紹介した話、逆に女の子とまともに話すことの出来ない先輩の話、仕事の話やスイーツやファッションの話などなど…非常に話題が広い。そして思いのほか面白い。
「案外さ、その笠松先輩だっけ?初めて出来た彼女と結局結婚しそうな感じじゃない?真面目でいい人なんでしょ?」
「やっぱなまえっちもそう思う?俺も同じ考えっス。こう、先輩は素朴でちょっと控え目な感じの子が似合うと思うんスよねー。」
「あーなんかわかる。普通より若干可愛い小柄な子?大和撫子とはちょっと違う感じ?で老若男女誰からも敵意を向けられないような」
「そう、それっス!でも俺、そういう女の子知らないんスよねー。なまえっち誰かいい人知らないっスか?」
「知らない。てか私、笠松先輩のことよく知らないし。あ、これあげる、あーん」
デザートのショートケーキの苺をフォークで刺し、それを黄瀬の口元へと近付けると、彼は一瞬瞠目してから嬉しそうに口を開いた。たかだか苺でこうも喜ぶ黄瀬を可愛らしいなと思いつつ、そのフォークでなまえは咀嚼を再開した。その様子を先程とは打って変わって黙って見つめる向かいに座る男に、彼女は妙な違和感を覚えたなまえはすっと顔を上げて「なに?」とたずねた。
「いや、何か…俺ら恋人同士みたいっスね。」
「端から見たらそうかもね。黄瀬みたいなイケメンと恋人に間違われる私はいつか誰かに呪われそうね」
「何スかそれ。なまえっちだって可愛いっスよ!」
「はいはいありがとうね。あ、もうこんな時間」
「なまえっち手厳しいっス。あ、これ青峰っちに渡しておいてくれます?」
「あんたもよく女の子相手にグラビア雑誌なんて渡せられ「違うっス」あ、そう」
「今月号、青峰っちがちょこっと載ってるんス。ほらここ。」
「あ、ホントだ。バスケに情熱を注ぐとか書いてもらってるけど、それとおっぱいが無くなったらあの子に何が残ると思ってるのかしら。もう蝉とザリガニしかないじゃない」
渡された月刊バスケットを覗くと、確かにそこには先程胸の大きさをどストレートに聞いてきた男が写っていた。
静止画だとカッコいいんだが…バスケやってるところもカッコいいんだが、如何せん彼女が日頃見かけている青峰大輝という男は、サボって昼寝してるか人の弁当を食い漁るかおっぱいのことを考えているかである。理性が見当たらない。
「なまえっち、眉間に皺寄ってるっス」
「あいつについて考えてたら、人間の学校じゃなくて犬の学校に入れるべきだったんじゃないかなって…一瞬本気で考えた」
その後二人はなまえの家の前で別れ、なまえは寝る直前に再度黄瀬から預かっていた雑誌をパラパラと捲った。
「あ、黄瀬も載ってんじゃん」