黒子
□4話
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「歴史って言うのは、年表を覚えてその時に何が起きたのかって覚えるんじゃないの。自分がその時代にタイムスリップしたイメージで何がどういう風に起きたのかって順を追って感じるの。何年に何が起きた、なんてのは自ずと覚えていけるから」
「はぁ?何言ってんだよ、歴史なんてただの暗記だろうが」
「その暗記が出来てないからこうやって教えてるんでしょ?ほら、体起こして。」
机に突っ伏している青峰の頭をそっと撫でると、ぱし、と彼の大きな手がなまえの腕を掴んだ。
「なまえ、お前俺のこと年下扱いしてねーか?」
(当たり前だ、10歳も年下なんだよ)
そんなことないよ、と教科書に持ち直し、なまえは勉強会の再開を促した。何故彼女が青峰と勉強会をしなくてはいけないのか、それは桃井と今吉に命じられたからに他ならない。どうやら、中学時代もこうやって勉強会を開いていたらしい。そのときは二人だけではなかったらしいが。
「ねぇお願い。勉強、しよう?」
眉を下げて問うてみると、青峰はじっとなまえを見てため息を吐いて体を起こした。どうやら目の前にいる友人のお願いに耳を貸すことにしたらしい。
「どうせちゃんと教えてやらねーとマネージャーにさせるとか言われたんだろ?あの腹黒眼鏡に」
「ご名答。そういうことはわかるのね。」
「別にいーじゃねーか。マネージャーになったら毎日俺に会えるんだぜ?」
「何言ってんだか、ろくに部活に出てないくせに。それにね、私はたまーにマネージャーのヘルプをして、大きな大会の時だけ観客席で桐皇(うち)を応援するくらいが楽しいの。」
大きな大会だったら青峰くんも出場するでしょう?と言えば、青峰は瞠目した。実際10歳も年が離れていれば扱いなど簡単だ。今まで同級生として彼らと接してきたなまえがどうだったかなどこの際どうだっていい。とにかく今は、この壊滅的なまでに勉学が不得手なこの男が教科書に目を向けてくれれば、構わない。
「なまえ、」
「何?」
「男でも出来たか?」
はあ?と眉をひそめ、なまえは教科書から視線を青峰へと移した。さっきまで焦点の合ってないような半目だったのに、今や狩りを始めようとする猛獣のようになまえは目の前の男を感じた。
「どうしてそう思うの?」
「男の扱いに慣れてる」
「扱われちゃった?」
小さく笑うなまえの言葉が図星だった青峰は恥ずかしそうに視線を外し「うるせ」と呟いた。
「いないよ」
「は?」
「青峰くんが聞いてきたんじゃない、男がいるかどうかって」
「お、おう」
なまえの答えに内心安堵している青峰を見て、彼女は内心微笑んだ。「さて」と言ったなまえはトントンと教科書で机を叩き、今度こそ本気で勉強会の再開を促した。