黒子
□1話
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朝起きて、鏡を見たら自分が若返っていたなんて、そうそう経験できることではないだろう。そんなフィクションのような出来事を身を持って経験してしまっているなまえの順応性は、本人が思っている以上に高かった。
***
「昨日はどうしたの?珍しくなまえが休むなんて私びっくりしたんだからー」
「ごめんね、さつき。ちょっと頭痛が酷くて…でももう大丈夫」
「ならよかった」
頭痛なんてのは嘘だった。まぁ、ある意味頭を痛めてはいたが、昨日は突然自分が若返って、しかもそれが単なる過去に戻ってしまったというわけでもない、そんな訳の分からない状況で学校なんて行けるわけがなかった。つまり、昨日彼女は午前中こそ気絶しかけたが、午後からつい先程までずっとこの世界での自分の経歴、家族構成から交友関係などを調べていた。そしてそれを記憶したうえで、本日登校したのだ。
最低限のリサーチは社会人の鉄則である。
「ねぇなまえ、病み上がりで申し訳ないんだけど、今日部活手伝ってくれない?」
(な ん で す と !?)
「あ、無理ならいいの!ちょっと今日、部活前に先生と打ち合わせがあって、その間だけでもって思っただけなの…」
「ううん、大丈夫だよ。最後までっていうのは難しいけど。」
「ホント!?ありがとう」
昨日の調査から、遅かれ早かれこうなることは決まっていたのだ。それが今日だったという話なら仕方がないとなまえは腹をくくった。幸いなことに病み上がりということになっているのだから、多少おかしなことをしても変に思われることはない。むしろ好都合である。
「じゃ、先輩には私から言っておくから。ホントにありがとう」
「またね」
ひらひらと手を振って教室を後にする桃井を見送って、これからいつまで続くかも分からない自分のスクールライフに頭を抱えた。
***
「おいなまえ」
「ん?」
「お前今日部活出るんだって?」
「あー、うん…さつきが戻ってくるまでの間だけだけど」
ふーん、と言って青峰はなまえの頭の上に乗せていた大きな手を離した。よく状況が飲み込めていないなまえは彼をぼんやりと上目遣いで見つめる。それに気付いた青峰は首を傾げてから「俺は行かねーけど」とニヤニヤしていた。
「あ、そ。じゃあまた明日ね」
なまえのこの言葉のどこに触発されたのかは解らないが、その日青峰が部活に顔を出したことに部員のみならず顧問までもが驚愕した。