悪ふざけ(夢)
□追憶への終着
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親父の腹の上に乗っかって、絵本を読んでと強請(ねだ)っていた年の頃に、あたしに年上の弟が出来たのだ。
「マルコ、ほんよんで」
「いやだよい」
「おねえちゃんのいうことはきかなきゃいけないんだよ」
「お前、どう見たって俺よりガキだろい」
「でもおねえちゃんだもん」
「意味わかんね」
「………」
年上の弟、と教えてくれたのは親父と船医だった。意味が解らなかったけれど、"弟"という単語は当時最年少だったあたしには、どんな菓子よりも甘美な響きだった。そんなあたしたちも、いつしかこの船では古株だ。マルコもすっかり声変わりして、あたしも酒やタバコで声が少し焼けた。
「マルコ、本読んで」
「……いやだよい」
いつしかそれは、二人の合言葉になって、年上の弟はあたしの耳元で甘美な言葉を囁いた。
追憶への終着