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景麒は、ゆめをみていた。
はやく走りたいのに、思うように走れない。
走ろうと思うのでだめなのかもしれない。
走るのではなくて、駆けるのにちかいのだ、そういえば。
そう思ってこころみるが、やはりだめだ、ちがう。
不本意だが、飛ぼうとしてみた。
それでも、だめだ、ちがう。
いつまでたっても、そこから景麒は動けない。
はっと目をさます。
汗がびっしょりと鬣をぬらしていて、とても不快だった。
夢だとわかっているのに、焦りは、虚無感は、ほんものなので、どうやったって、じぶんの無力さにいつもうんざりしながら飛びおきる。
探さねば
あたまのなかで声がした。
誰の声でもない、じぶんの声だ。
もう、この声をずいぶん長いあいだ、きいている。
数えれば、そうたいした日はたっていないかもしれないが、それでも四六時中この声を聞きつづけているのだから、正確な時間など問題ではなかった。
半身を失い、半分だけがらんどうになってしまった自分のなにか、得体のしれないものが、猛烈なかわきをもってその半分を埋めるために景麒をつき動かしている。
景麒は、一人目の王を、失った。
一人目の王、だなんて。景麒は顔をしかめる。
定めた王は、ぜったいにただ一人、あの方だけだった。
けれど、もう、いないのだ。
認めがたい、いつまでも目をつむっていたい事実を、景麒はじゅうぶんにこの目でたしかめた。
いやなのに、そうしたくないのに、頭から、体から、もしかしたら、そこらじゅうから。
探せ
そう、きこえてくる。
探せ、二人目の王だ、探さねばならない。
いやだ!
国のことも、民のことも、ぜんぶ忘れてしまって、景麒は苦悩した。
いやだ、あの方を、守れなかった私に、またおなじことをさせるつもりか!
景麒のかなしみは深かった。
いまだって、柔らかくわらうかの王を、景麒はありありと思い起こすことができる。
細いゆび、白いくび、あごがすっきりととがっていて、薄い唇が、景麒、そう呼ぶこえをきくと、景麒は朝露にぬれた薔薇のように、自分がいきていることを実感できた。
それなのに、もう、どこにもいないのだ。
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