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□探検隊
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探検隊
二人は、とうとうさいごの酒瓶をあけてしまった。
さあ、もうこれでほんとうに、さいごのさいごだ。
二人とも、ちっとも酔えていなかった。
ただ身体だけがぽかぽかとあたたまって、少しいい気分だ。
「なくなった」
「うん、なくなったね」
それぞれの、薄い硝子の杯に注いだので、もうおわりだった。
それにすぐには手をつける気にならなくて、二人して黙る。
露台はまだ少し肌寒いかと思ったが、心配には及ばず割りと過ごしやすい。
春にいちにちいちにち向かう暗闇も優しく、時折、池でなにかがぽちゃんと動く音がした。
のどかな、やさしい夜だ。
明日には、二人は新しい任地に発つ。
絳攸は藍州に、楸瑛は紅州に。
双花菖蒲なんてよばれていつもなんとなく一緒に居たものだから、なんだかこれから先だってずっと一緒にいるような気がしていた。
けれどもきっとこれから何年も、そう滅多に顔をあわせる機会はないだろう。
うまくいけば新年の朝賀で毎年一度は顔を合わせることになるのかもしれないが、それだってどうだかわからない。
楸瑛は、実家を勘当された身とはいえ、藍家の直系であることにはかわりなく、藍家嫌いの紅州でいったいどんな扱いに遭うかと少々びびっていた。
絳攸とて姓こそは違えど、紅家前当主の養子だということを知っているひとは当然知っている。
傲慢で利己的とそしられる紅家の名をしょって藍州に行くのだから、あまり歓迎はされないことくらい、ようくわかっていた。
自分のゆく道に一抹の不安を抱きながらも、それでも目の前の相手よりはマシかもしれない、と二人ともが思っている。
お互いがお互いを励ますつもりで旅立ちの前夜に設けた酒席だったが、どうにも尻すぼまりになってしまった。
もちろんまったく性格の違う二人だから、いままでだって二人で飲んでいて盛り上がって盛り上がって仕方がない!なんてことになったことはない。
それはそうだけれども、こういうしんみりした感じは、別れを目の前にしてあまりふさわしくはないように思われた。
盛り上げようにもいまさらこの二人で、しかももう酒も底をついたのに。
しかたがないなぁ、と二人して苦笑する。
「なんだかなあ」
楸瑛が、ううんと伸びをしながら笑う。
「君とはずっと一緒に主上の側にいるんだと思ってたのに。変な感じだなあ」
「…そうだな、変な感じだ、俺も。お前にはほとほと困らされることもあったが、いざ離れるとなるとなんだか…」
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