.
□ガーベラ
1ページ/2ページ
ガーベラ
月に一度か、うまくいけば二月に一度くらいで済んだが、とにかくそのくらいの頻度で、台輔は調子を崩す。
そう浩瀚は聞いていた。
勿論国が傾くほどの調子の崩し方ではなく、麒麟にはよくあることらしいと、彼にとってのその事項についての認識はその程度で、実際そういう状態に台輔がなれば二、三日政務には出てこないので、浩瀚は知らなかったのだ。
台輔が、どんなふうに「調子を崩す」のかを。
その夜はとてもいい夜とはいえない天気で、じっとりと湿気が宮のあちらこちらに充満しており、とにかく蒸した。
蒸すものだけれども百官の長たる浩瀚が簡略な召し物を身につける訳には行かず、首まできっちりと官服を着込んで政務にあたる。
なるほど、主上が嫌がる訳が解る、と浩瀚はどちらかと言えば同情的に、毎朝ごく簡素で少々見劣りする官服に身を包んで朝議に出てくる陽子を思い浮かべた。
先々代、先代からの古参の官などはやはりいい顔をしないだろうが、浩瀚は簡略な衣も合理的でいいかもしれないと思案した。
とにかくそんな夜のことだった。
昨日から台輔は『調子が優れない』らしく、政務に出てこられない状態だ、と主上直々に聞いていた。
その分浩瀚が片付けねば少々段取りが悪くなる。
除目を控えた時期であるので、不用意な滞りは今のところ避けておきたかった。
台輔の分を引き受けて少し無理をしながら順繰りあたってはいたが、瑛州の案件まではさすがに手を出せぬ。
しかしよくよく読み込んでみれば、少し台輔に確認をとればあげられそうなものだ。
調子をお崩しになっていると言っても、ものの二、三分で済むだろうし、病み上がりの体のために、仕事を一つでも多く残さぬほうがよかろう。
そういう判断で、浩瀚は台輔の居室へ向かった。
主上は夜の政務は早めに切り上げて台輔の見舞いにいっていると女官より聞いている。
うまく運べばまだ彼女も台輔の室に居るだろう。
明日の朝議での議題も少しばかり詰めておきたいことがあった。
台輔の宮には先触れの女官の姿が見えず、訝しく思うが彼の機嫌の悪い様子を思い浮かべると、それも致し方なしと納得する。
調子の悪い台輔など、いつもに増してご機嫌は悪いのだろうし、それは女官も近づきたくはないだろう。
それに、主上がいらっしゃっているのなら、主従水入らずのところをお邪魔しては無粋だというものだ。
そう、納得したのだった。
感じた違和感は、無視をした。自分でもそれと気づかぬうちに。
.