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□冷たい頬
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「…もう、お腹の調子はいいの」

「ああ、もう大丈夫だ。でも念のため今日はやわらかいものを食べておくことにする」

「そう、よかった」

陽子はまたくすくすと笑う。

「よかった、ほんとに。虎嘯が倒れたら、わたしのこと誰が守ってくれるの。ちゃんと薬飲んで養生してね」

柔らかく笑いながらそう言うのに胸が詰まって、虎嘯は思わずポン、と陽子の頭に大きな手を置いた。

撫でようとして、手を止める。

髪にはいくつもの簪や飾りが揺れていた。

崩してしまっては、また陽子が女官たちに嫌な顔をされるかもしれない。

そう思い止まり、ポンポン、と軽く叩くだけにした。

手を降ろすときに、指が陽子の頬に触れる。

触れると、こちらが身じろぎするくらい、その少し丸くて滑らかな頬は冷たかった。

寂しげに微笑む女の子。

夕暉といくつもかわらない、まだまだ子供だ。

その子供が必死に女王さまをして、そして照れ隠しのように悪ガキの真似をする。

頬を冷たくするまでずっと、ここで何を考えていたかなんて、虎嘯には知る由もない。

虎嘯には弟のようには学がない。

体力だけが取り柄で、王様の仕事なんて考えただけで目眩がしそうだ。

難しいことはわからないし、細かいことを考えるのは苦手なので、虎嘯は大雑把すぎる、とよく言われる。

例えば時々、弟でさえ何を考えているのかよくわからないのに、女の子の考えることなどわかるはずもない。

考えてもわかるはずがないのだ。

わかるのは、この冷たい頬の女の子を笑顔にしてやらなければならない、ということだけだった。

降ろそうとした手をもう一度陽子の頭に置いた。

不思議そうにする陽子にかまわず、もう片方の手も頭に置く。

朱い絹糸みたいな髪に、十本の指を差し込んだ。

「うわっ!?」

簪が半分抜けた。

飾りはまるで沈丁花の花みたいにぽろぽろと落ちてくる。

綺麗に結い上げられた髪は、もうぐちゃぐちゃだった。

ぐちゃぐちゃになるくらい、思いっ切り撫でてやったから。

「わは!やめろ!やめろってば!やー!虎嘯!」


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