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□新月
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新月
疲労の濃い寝顔を総悟は苦々しく見下ろす。
とうとう力尽きたといった体で隊服姿のまま転がる男の手元には、本来総悟が処理しなければならなかったはずの始末書が散乱していた、それも何枚も。
しかもそれらは全て処理済みで、勿論それは総悟がしたのではなく、大嫌いなこの男がしたということは明白だ。
バカなおひとだ
やはり苦々しくそう思って、バズーカを男に向かって構えた。
「沖田さん」
突然背後から声がかかり総悟はびくと肩を揺らす。
「……なんでィ、ザキ…おめェかよ」
気を悟らせないで総悟の後ろに立てる人物など一人しかいないので、本当は振り返るより前に誰なのかなんてわかりきってはいたが、顔を確認すれば案の定山崎だった。
「おめェ、気配殺して俺に近付くんやめろや。いつもビビっちゃうからね、いやホントに」
「またまたぁ。別に気配なんか殺しちゃいませんよ。もともと地味なだけですぅ」
そう言って地味に笑うこの人間に、では地味だけで監察が勤まるかといえばもちろん否である。
そうかィそうかィ、とぞんざいに返事をしてしまうと、山崎が己の持っているバズーカをじっと見ていることに少々居心地が悪くなった。
しゃあねえなァ、ととりあえずバズーカを降ろす。
山崎はそれを認めると、困ったようにちょっと笑った。
「勘弁してやって下さい。副長、寝たのついさっきなんですよ」
だから起こさないでやってくれと総悟に訴えるお前は土方バカヤローコノヤローのいったい何なのだとききたくなるが、きいたところで到底総悟が満足できる答えが返ってくるとも思えなかった。ので、黙ってバズーカの筒先をなおす。
礼なんぞ言うなよ、と思ったがありがとうございます、と山崎が小さく言ったので最高に苛立った。
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