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□When You Wish Upon a Star
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晴れてよかったね



邵可は声には出さずに夜空を仰ぐ。

空にはまばゆい星が幾千にも瞬いている。

今夜は、娘も息子も仕事で宮城に詰めている。

彼らが小さい時分は、市場の酒屋の主人の家に、大きい笹をわけてもらいに行ったものだ。

それを息子、静蘭と一緒に持って帰る。

家には、笹に飾る飾りを、山ほどつくって待っていてくれた、秀麗と−…


「君が、いたね」

そっと小さく囁くように言った言の葉は、ふわりと宵闇に消えていった。

窓を大きく開けて、その傍に卓を置き、邵可はいまその椅子に座っている。

向かい側に置いた小さな、今はもういない最愛の人のお気に入りだった杯に、とぷ、とぷ、と酒を注いだ。

そして、自分の杯にも、同じように。


星に願いを懸けるとき、心を込めて望むなら、きっと願いは叶う、という歌があった。

邵可は思いだす。

心の底から夢みているのなら。

たとえば夢追人がするように、星に願いを懸けるなら叶わぬ願いはない、と歌っていたあの歌。

ふふ、と邵可は笑う。

どんなに願っても願っても、最愛の人は戻ってはこない。

血を吐くような願いを、祈りを、星に何度繰り返し唱えただろう。

それでも彼女は戻ってはこなかった。

一年に一度逢うことを許される夫婦星の伝説は邵可にとっては妬ましく、一年に一度、いや、それ以上に邵可を苦しめた。

そうして彼女と過ごした七夕の夜より、彼女がいなくなってからの七夕の夜が多くなって、何年も何年も。

いつしか、不思議と、夫婦星の伝説は、邵可を苦しめなくなった。

たぶんそれは、いつかの娘のあの言葉があったから。



『父様、彦星さまと織り姫さまは、一年に一度しか逢えないことを不幸だと思っているかしら』

『どうして?とても寂しいし、残念だと思っていると私は思うよ』

『皆はそう言うけれど、私はね、ちょっと違うと思っているの』

『え?』

『逢えない時間、二人はずっと、お互いのことを考えているのよ』


それって、すごく、すごく、幸せなことだと思わない?


そう言った、恋もまだ知らないはずの娘が、一瞬、彼女のように見えた。

あれは、きっと寂しがる邵可を見兼ねた彼女が秀麗に言わせた言葉なのだと邵可は今でもそう思っている。



「ずっと君のことを考えているよ」

そっと言うと、さわり、と夜風が邵可の頬を撫でる。

「まだまだ、やることがあるからね。君に逢いに行くのは、うんと先だと思うけれど」

杯と、杯を触れ合わせると、チン、と小気味よい音がした。

「それまで、ずっと君のことを考えておくよ」

だから、君も私のことを考えていて。

「……君に逢うのが楽しみだね」


そっと杯を流し込むと、つん、と鼻の奥が痛んだ。

それを、邵可は目を閉じてやり過ごした。





愛し合うふたりの
密やかなあこがれを
運命は優しく優しく
満たしてくれます



星に願いを懸けるなら
運命は思いがけなくやって来て
いつも必ず
夢を叶えてくれるのです


いつも、必ず








星に 願いを










fin.

→アトガキ

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