化学≒魔術の法則

□第三章 口は災いのもと
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「ほら、何トロトロしてんのよ! 早く来ないと他の人達まで感染しちゃうでしょー!」
「お前の高笑い中にも何人か感染したろ! 少しは自分の非を認めろよっ」
ご丁寧にも脱靴場で上履きに履き替えてから、俺たち四人は廊下を歩いていた。それはもうのんびりと、傍から見ればやる気の欠片も見当たらないに違いない位のスピードだ。
「ま、まぁでもそこまで大変な事態じゃないみたいですし」
辺りを慎重に見回しながら沙里が言った。これ程にゆったりとしているのにはちゃんと理由がある。――あまりに障害物が多すぎるからだ。
「だな。なんてーか幸せそうな顔してやがる」
流が半眼で辺りを見回す。
辺りを見ればユニホームや制服、ジャージに身を包んだ人々がなんとも幸せそうな顔をしてあちこちに寝転んでいた。どの顔もご満悦といった感じだ。見ているだけで勘に触る上に、こいつらときたら校舎のいたる所に寝そべっているので邪魔なことこの上ない。
 こいつら全て七海の薬が原因らしい…。
……本当に凄い効果だな。
「……そういや俺たちは何で平気なんだ?」
「あれ? そういえばそうですねぇ。私たちはほにゃーってならないですし」
俺の疑問に沙里が首を傾げた。そういった仕草のせいで余計に幼く見えることを本人は知らない。
「きっと、昨日の変化する前の臭いを吸ったからじゃない? 耐性でも出来たのよ」
七海が適当に告げた。言いながら足下に転がっていた巨体の生徒を蹴とばす。
「おい、あんまり乱暴にしてやんなよ!」
「してないわよ。こいつ、柔道部よ。これくらい日常茶飯事に決まってるわ」
けろりと七海が言った。……そういう問題じゃないという事にいつ気付いてくれるのだろう…?
「にしても邪魔だわ、こいつら。寝そべるなら端っこの方にすればいいのに…」
「寝そべる原因を作ったお前に言われたかぁねーだろうな…」
「………さて、今はA館だからC館まで行かなくちゃいけないわね」
さらりと七海が明後日の方を向いて言った。どうやらヤツの耳には都合の悪い話は入らないらしいな…。
「…お前もそろそろ突っ込んでも無駄だという事実を受け入れろよ」
「………そういやぁ七海」
背後で流の呆れた様なセリフが聞こえたが、俺は軽やかに無視をした―――。
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