黒い本

□犬と主
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犬の死体が動いていた。
目の錯覚ではない

中に居た虫の仕業?
いや、そんな訳無い。
死体の表皮どころか、そっくりそのまま起き上がらせる虫がどこにいるって言うんだ。

まるで生まれたての小鹿のように、そいつは…犬の死体はプルプルと立ち上がる

それを見る子供の俺の心にあったのは
恐怖なんかじゃなかった
それは歓喜!!

何だコレ!!凄い!凄い!生き返った!
その犬が飛びかかるとか、そういうのを考えてないのか…俺はその場でじっと観察した。
よい子は絶対に真似をしないようにな

剥製にして好きな動物を永遠に留めておこうが、それが動くわけではない

だがこの犬は死して尚動くではないか。
幼き頃から抱いていた黒い願望の塊がその犬にはあった。
ようやく立ち上がった屍犬は確かめるようにタシタシと、その場でくるりと回る。そして口を開きダラリと舌を足らした
「ココ…ドコ?」

「しゃ…喋った!!!」
運命の出会いとはどこまで素晴らしいものだろう。よもや喋る事まで出来るなんて!
驚きに声を上げる俺の方を犬はじっと目の無い瞳で見つめてきた。
「イキテル子供ダ…、食ベラレナイ」
犬は頭を垂らす
もしかしたら俺は食われていたのかもしれない
そんな恐ろしい想像より何より、この犬は空腹で、何かが食べたいのだ!と言う事実が最優先された訳だ。
「何か食べたいのか」
「何カタベタイ」
素直なオウム返し、なんてこの生きた死体は可愛いんだろう!
「わかった…何かもってくる!待ってろ!」
「マツ?マツト何カタベレル?」
「ああ、食べれるさ」
「ワカッタ、待ツ」
さっきの横たわっていた形と違い、ごくごく自然の犬のようにそいつは座り込む。
飼い主でもいたのかな、だとしたら譲ってもらいたいな…とか、そう考えながら俺は厨房に忍び込む事にした。
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