小説 海賊


□美しき情景
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明け方、喉が渇いたので水を得ようとナミはキッチンへと足を向けた。

昨夜、コックと剣士に話し合いを強制し、尚且つ手を繋いで寝ろと無理難題を押し付けた。

本気で手を繋いで寝ろとは思っていない。ただ、常に反目しあっている二人が少しでも歩み寄りを見せてくれれば、他の船員たちも心穏やかに過ごせる時間が増えるだろうと思ったのだ。

実際あの二人が派手に喧嘩をすると、船の修理にウソップが泣き、医療品が消耗するとチョパーが嘆き、船が揺れて海図が書けない自分が迷惑を被る。

ルフィとロビンは二人を眺めて笑っているだけなのでどう感じているかは定かでない。この二人、懐が大きいのか、それとも無頓着なだけなのか。

それはともかく、寄るとさわると喧嘩ばかりのコックと剣士がそうそう簡単に和解するとは思えない。

手を繋いで寝ないとしても、キッチンという同じ空間に二人で大人しく納まって眠っていれば上等だ。

ナミは寝起きでしょぼしょぼする眼を擦りながらキッチンの扉を開けた。



目の前に広がる光景をどう形容して良いものか…ナミはその場に凍りついた。

視線の先にはソファに身体を預け眠り込むコックと剣士がいる。男二人が眠るには狭苦しいだろうに。

二人の手はがっちりと手が繋がれてた。

まぁそれは自分が強要したのだから良しとしよう。

だが…だが!!

横たわったサンジの上に覆い被さったゾロはくぅくぅと健やかな寝息をたてている。安心しきった子供のように穏やかな表情を晒して、ゾロはサンジの胸の上に納まっていた。

コックは胸元に剣士の片手を握り込み、もう一方はまるで恋人を抱擁するかのように剣士の腰を優しく包んでいた。それはとても大事な宝物を抱くように。

この一晩の間に二人の間に何があったのか。

ナミは音を立てぬよう慎重に二人に近づいた。

膝をついて二人の顔を覗き込む。


ふふっ。笑みが漏れた。

なんだかよくわからないけが、二人はとても幸せそうに眠っている。それがなんだかとても嬉しい。

この二人がこれから進む先はどうなるかわからないが、自分はありのまま受け入れよう。

だってこんなに心が温まる光景なんだもの。



仲善きことは美しき事哉。
 

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