STORY
□滔々
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【プロローグ】
このまま、きっとずっと一緒にいるんだろうな、と漠然と思っていた。
結婚して子どもを産んで、優しい家庭をつくる姿を想像することもあった。
未来を信じて疑わずに、隣にいた。
「ねぇねぇ、明日ドライブ行こうよ」
「だーめ。明日は朝から講義あるし、午後は塾のバイト」
「えぇ、土曜日なのに?」
「そ。意外と忙しいんです、大学生は」
「一日くらい、いいじゃん。休んじゃいなよ」
「ばか言うな」
向かいの家に住んでいる幼なじみのお兄ちゃんと付き合い始めたのは、私が高校に入学してすぐだった。
昔から、優しくて真面目で努力家なところが大好きだった。
柔らかく目を細めて微笑みながら名前を呼び、骨張った大きな手でゆっくり頭を撫でられると、それだけで幸せになった。
「愛海。こっち向いて」
慰めるように抱き締めて欲しくて、わざと怒ったふりをする。背中を向けて、優しく触れてくれるのを待つ。
「あれ、こんな所に映画のチケットが。しかも2枚」
その声に反応して僅かに肩を動かすと、背中の向こうで空気が動き、笑った気配がした。
「日曜日、如何ですか。お嬢さん」
チケットを親指と人差し指で挟み、私の顔の前に持ってきて、ひらひら揺らす。
「行く」