STORY
□猫とたんぽぽ
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小さい頃、ネコを飼いたいと親にねだったことがあった。
祖父母の家で飼っているメリーという名のネコが可愛くて、私も欲しい!と駄々をこねた。
うちは借家だから無理よ、と母は言った。「借家」の意味が分からず首を傾げる私を見て、仕事から帰ってきたばかりの父は笑った。
「なんだ、さー坊。まだ諦めてないのか?」
ねばるなぁ、ガハハ。と豪快に体を揺らして笑いながら、私の頭を撫で回した。それも、髪がぐしゃぐしゃになるくらい。
作業着姿の父は、仕事終わりで少し汗くさい。
「父ちゃんは犬のほうが好きだぞ?柴犬なんてどうだ?ん?」
ふるふると首を横に振って返事をすれば、またガハハ。
「ダメか。そうかそうか」
最後にぽんぽんと私の頭を触ると、ベルトを外しながら浴室へ消えていった。
「さや」
母が温かい手をそっと私の肩に乗せた。
「ネコはね、自由に生きるのが一番いいのよ」