中編

□9回目
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トイレの場所も取り残された子供の名前も聞かずに飛び込んでしまったため この炎の中 どこに行けばいいのかわからない
煙を吸わないよう口元を袖で押さえながら 足場を探し 厠の文字を探す



ガラガラッ


「っ!!」


突然背後から聞こえた大きな音に驚き振り向くと さっきまで自分が歩いていた場所に天井が焼け落ちてきた音だということがわかった


「危ね…」


暑さからなのか それとも恐怖からの冷や汗なのか どちらかわからない汗が額を伝う
早いところ子供を見つけ避難しなければ 炎の中 逃げ道を失ってしまうだろう
拭っても拭っても落ちてくる汗が煤まみれの畳に染みをつくっていく
暑さに堪えられなくなって上着を脱ぎ捨てると再び子供を探すべく前へ進みだした また隊服を一着ダメにしたと土方に怒られるが それ以前に生きて帰れるかわからない
今まで幾つもの死線を潜り抜けてきたから今さら死ぬのが怖いなんて思わないが こんなところで死ぬのは御免だ

何がなんでも生きて帰る
そう自分に言い聞かせ足を動かした



ガラガラッ


今度は炎に包まれた襖が倒れてきた

なんとか避けたが前に進めなくなってしまった
どうしようか辺りを見回した沖田の目に映ったのは探していた文字だった
倒れた襖で仕切られていた部屋の向こう側に厠があったのだ



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