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□無機質な光と、暖かい闇
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「……ふぅ。」

やっと終わった。
トントン、と纏め終わった書類の束を作業机の上で叩いて整えた。

左にそびえていた未処理書類の山は、点検や訂正を済ませ右側に全て移動した。
…のは良いが、すっかり遅くなってしまった。

副長怒られてしまうかも。

昼間に始めたはずだったのに、すっかり夜も更けて辺りも静まり返っているようだ。
食堂から持ってきたコーヒーも冷めきっている。

すぐに届けに行きたいところだけれど、肩の重みや目の疲れが私をなかなか座布団の上から動かそうとしない。

「すいません副長…あと5分だけ遅れ…ます…」

ばたり、とそのまま後ろに倒れ込んだ。
これだけ遅くなったんなら、5分や10分の差なんて関係無いと思いたい。


ぼんやりと天井の蛍光灯を眺めていたら、急に人型の影に視界を遮られた。

「ぅわ、」

誰かが私を覗き込んでいるのは分かったが、まだ闇に目が慣れず、人物を特定する事が出来ない。

「あ、ごめん、びっくりさせちゃった?」

聞き慣れた柔らかい声音に、すぐに見えない像は結ばれた。

「や、まざきささん?なんでいるんですか」

「うん、偵察から帰ってきたから副長の所に報告に行く途中。遅い時間だし…まだ明かりついてたから気になって」

「あー…さいですか。お疲れ様です」

言われてよくよく見れば、確かに山崎さんはいつもの隊服ではなく忍装束を身に纏っている。

「お互い様みたいだね…スッゴい書類のタワー」

ぼんやりと闇から浮かんできたものの、まだ表情は伺えず、おそらく苦笑しながら机の上を見やったのを察する。

「まぁ…しばらくは紙も見たくないですね」

「それだけやればねぇ…。じゃあそれは俺がついでに持ってっとくから、君はもう休みなよ」

「え、あ、いやいやいいですよ」

急いで起き上がろうとしたが、立ったままの山崎さんに俊敏さは勝てず。
さっさと書類タワーを取り上げられてしまった。

今度は影がいなくなったせいで眩しくてよく見えくなってしまったが、私の横を通り過ぎ、襖を開けたようだった。

しゅ、と襖の開く音が向こうで聞こえる。

「いいから。それに夜更かしはお肌に悪いんだよ?君、女の子なんだからそーいうの気にしなきゃ」

じゃあ、おやすみ。と言い残して襖が静かに閉められた。

「……女の子、ねェ。」

ぽりぽりと既に荒れかけた肌を指で掻きながら呟いた。

真選組隊士の私でも、女の子としてカウントされていただけ良しとしようか。

嬉しくないと言ったら嘘になる。

とりあえず眠ろう。疲れたし…肌に悪いらしいから。



…優しい彼の隣には、もう素敵な女の子がいるけれど。

眠って明日になったら、何かがすこしくらいは変わるかもしれないじゃない?

明かりもそのままに目を閉じて、闇と睡魔に身を委ねた。



無機質な光と、
暖かい闇

(光が強ければ強いほど、闇は深く抜け出せなくなるのに)
(それでも光に近付きたいと、願ってしまうの)





11/08/03拍手から移動&修正
蛍光灯ってなんかミステリアスだなとおもうのは私だけでしょうか


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