命短し旅せよ乙女!

□第五話 肩書き(=or≠)居場所
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総悟と食堂でまたお茶をする約束をしたは良いが、その肝心の食堂までの道のりがわかる筈も無く。

廊下をすれ違う隊士達にしこたま変な目で見られて避けられながらも、半泣きでなんとか捕まえた隊士さんの一人に食堂まで案内して頂いた。


広くて小汚い(失礼ながら事実である)食堂を見渡せば、台所は空だったので(どうやら隊士の当番制のようだ)、ちょっぴりガスコンロと魔法瓶をお借りした。
食事どきでも無く人もさしてやってこない台所でお茶をのんびりたんまり煎れて、魔法瓶で保温のまま待機。

安い茶葉だがこの私の茶の質の上げっぷりは無類で、明らかに私のお茶くみスキルが上がっている事を伝えている。


「…きっと上司ウケするOLになれるぞ、私」

ずず…とまぁまぁに美味い番茶を啜りながら呟いてみた。

「さらに誰か飲んでくれる相手がいれば格別だろうに、」


「なら疲れた俺に献上しろ。」


「ぎゃっ!」

後ろから不意に降ってきた声に飛びのけば、さっき私の部屋に総悟を探しに来ていた土方さんであった。

「総悟、まだ見付かりませんか」

「まァな。どーせまたプラプラ街をほっつき歩いてンだろうが……今は生憎書類に追われて探す暇すら無ェしな」

「それはいたたまれないですな…ささどうぞ一杯」

第二の目的「土方さんを労う」を達成させるべく、お茶を献上すれば疲労が濃いらしく黙って受け取り啜っていた。
それほど疲れているのは分かったが、先刻までの横柄ぶりは何処へやらである。


「っあ゛ー…美味ェな」

「ありがとう、ございます」


…何処へやら、である!
ツンデレにデレられたような気分になった。

「献上ついでにだ、蓮見」

「はい?」

「…冷蔵庫のマヨネーズ取って来ちゃァくれねーか」

………マヨネーズ出たァァァ
美味しく煎れたお茶にブッ込むつもりなのか!コーヒーにも入れてたし仕方ないか!

「あー、ハイワカリマシタ」

うっかりお茶くみにプライド感じ始めたばっかりに…悲しいものがある。
マヨネーズを手渡したらやっぱり湯呑みの中に絞って入れ始めた。

誰か、目の前で繰り広げられる薄黄色の視覚的暴力から私を助けてくれないか。

もう土方さんのカミナリが落ちるのを覚悟で…総悟でもいい、誰か来てくれ。

そう念じた刹那、

「――千早ー戻ったぜィ」

また背後から別の声。

土方さんがマヨ茶を飲む手が止まり、ヒビが入らんばかりの力で湯呑みを握り締める。

「……テメェ、」

総悟でもいいとは言ったけど!

ベストな人選ではないだろう!!

「げ。」

「げ。じゃねえだろうが馬鹿!一体テメェのお陰で何件書類が片付かねェと思ってやがんだ!!」

彼のストレスと疲労の根源がやって来てしまっては労うもクソもない。
……いやはや困った。

「さぁ、どれくらいでしょうねィ」

にや、と総悟が嫌味っぽく笑った途端、土方さんの(ただでさえいつも開いてる)瞳孔が全開した。

…喧嘩へのカウントダウンは光の速さで迫っていると感じた。
土方さんがテーブルから立ち上がりつかみ掛かろうとする瞬間、私は持ち得るもので喧嘩の中断に打って出た。

「……っ総悟このやろ「あ゛あ゛あ゛あ゛しまったーお茶が土方さんの下半身にィィィ!」うわっ蓮見お前何しやがる!?」

テーブルに置いたままだった可哀相なマヨ茶を土方さんの方にたたき落とした。
横に転がりテーブルから落ちた湯呑みは水分と油分をぐっちょりべったりと染み込ませた。

…運の悪い事に主に股間周辺に。


「やーい糖尿ならぬマヨ尿ー」

「「総悟ォォォ!!!!」」

私と土方さんの若干違うベクトルで向かう怒りの声がステレオのように響いた。
なんでまた…せっかく話を逸らそうと挑戦した決死の行動を無駄にするかなあこの人


「総悟おまっなんなんだよぉぉどんだけ喧嘩したいんだよもう!謝れ私に!この苦労は無駄になどさせんぞ謝れっ!」

「つかズボンこんなもんにした真犯人が先に謝るもんだろうが!」

「土方さんもうるっさいなぁ!アンタはまず、せっかく値段以上の味だったのに薄黄色く汚されたお茶さんに謝りなさい!!!!」

「意味分かんねェよ!」


侃々諤々屍々累々(私の精一杯の知的な割愛方法)と言おうか……とりあえず円形に座って互いに頭を下げあうという形で話は落ち着いのだった。

その後通り掛かった近藤さんに見付かって、究極に気まずくなったのは別の話である。





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