長編

□初夏の光
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開け放たれた大きな窓から初夏の陽気が流れ込む病室。そこに佇むのは一人の少女。頭には包帯を巻かれて、頬に湿布を貼り、三角巾を肩から回し左腕を吊りつつも、その表情は頗る穏やかだ。
下の方で緩く結われている長い髪を指でもて遊びながら、窓の外を風に乗って舞う桜のはなびらを見つめる瞳は優しさを讃えつつも少し切ない色を見せていた。

コンコンというノック音に、儚げな姿とは対象にしっかりとした声で返事を返すと、扉が引かれ現れた顔に笑顔を見せた。先程の穏やかな大人びた表情とは裏腹に、笑顔は年相応に…いや、少しばかり幼くも見える。




「体調はどうだ?」


「平気っ もうすぐ退院出来るって先生が言ってくれた」




ベットの隣にある丸椅子に座る彼を目で追い、そして身を軽く乗り出して笑った。「ほら」と言って差し出されたのは一冊のノート。今年から高校に入る予定だったのが、入院の所為で未だ行けていない少女の分の授業用ノートだ。




「いつもありがとね 洋平」




少女に洋平と呼ばれた彼は、優しげに目を細めて笑って少女の頭を軽く撫でた。




もうすぐ、高校に行ける―――…




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